生活保障の戦略

「生活保障の戦略」

  • 著者:宮本 太郎 編著
  • サイズ:四六判・並製・カバー 238頁
  • 定価:本体 1,700円 + 税
  • 刊行:2013年10月
  • 岩波書店刊:https://www.iwanami.co.jp


本書紹介


 これまで日本においては、大学・高校等の学校教育を受けた後、安定した業界・企業に就職することで長期雇用が約束され、家族を扶養することができ、退職後は公的年金等をもらって悠々自適な余生をおくる、というライフコースが半ば常識のようになっていました。
 しかし、日本経済が成長期から停滞期に入ると、非正規雇用が増加して労働者の3分の1強を占める等、雇用の状況が大きく様変わりする一方、公的年金等の社会保障は人生の後半に集中した仕組みのままになっています。このような中で現役世代は、経済力も人とのつながりも弱くなり、社会保障による助けも受けられず、一度ライフコースから外れてしまうとなかなかやり直しが利かなくなる等、大きな不安を抱えています。安心して生活ができるように、これまでの日本の社会を担ってきた教育、雇用、社会保障等の各制度の仕組みや連携等のあり方について根本から見直す必要があるように感じます。
 本書は、2011年9月から2013年5月にかけて14回にわたり当協会が開催した「生活保障研究会」(主査:宮本太郎・中央大学法学部教授)での議論を研究成果としてまとめたものです。同研究会では、上記の問題意識のもと、安心できる社会の構築のためには何が必要なのか、日本社会の実状と課題を俯瞰し、幅広く議論を行いました。
 本書の内容について簡単にご紹介します。


  • 目 次
  • 序章 生活保障の新しい戦略(宮本太郎)
  • 第1章 教育と仕事の関係の再編成に向けて
  •  ―現状の課題・変革の進展・残された課題―(本田由紀)
  • 第2章 多様な形態の正社員
  •  ―非正社員と正社員のキャリアの連続に向けて―(佐藤博樹)
  • 第3章 若者の自立を保障する
  •  ―学校から労働市場へ―(宮本みち子)
  • 第4章 日本の生活保護・低所得者支援制度
  •  ―ワーキングプア層への目配り―(埋橋孝文)
  • 第5章 「給付付き税額控除」か「ベーシックインカム」か
  •  ―イギリスの制度改革から学べること―(諸富徹)
  • 第6章 低所得高齢者向け最低生活保障制度の確立
  •  ―最低生活を保障するための選択肢―(駒村康平)
  • 第7章 生活困窮者支援の一環としての家計再生ローン
  •  ―相談支援とセットになった日本版マイクロクレジット―(重頭ユカリ)

 序章では、「生活保障」とは人々の暮らしを持続可能とする仕組みであり、それは教育、雇用、社会保障の3つのサブシステムの連携により構成しているが、現在サブシステムの連携が崩れ、機能不全が深まっているため、新しい生活保障をつくるにはどのようにしたらよいのかという問題提起をしています。
 第1章では、教育と雇用の連携の側面から、現在の日本での仕事のあり方、教育と仕事の接合のあり方、教育のあり方について、それぞれの現状の課題、再編成に向けた変革の進展、そして残された課題を検討し、欠落している観点を提起しています。
 第2章では、非正社員の能力開発機会とキャリアの現状が述べられ、企業における正社員活用の多元化から、多様な形態の正社員の導入による人事管理や労使関係の課題とあり方について論じています。
 第3章では、学校を出てから成人への移行過程にある若者の現在の喫緊の課題は自立困難であるとして、若者に自立を保障する政策として、教育・訓練、雇用、福祉、保健等の包括的な環境整備の必要性を提言しています。
 第4章では、国際比較からみたセーフティネットとしての日本の生活保護・低所得者支援制度について制度設計と水準の観点からその特徴について述べられ、ワーキングプア層への目配りが必要であると提言しています。
 第5章では、今後日本において就労への動機づけを考慮しつつ貧困層の生活保障を図るためによい制度とは何か、イギリスの事例から「給付付き税額控除」と「ベーシックインカム」を比較しながら考察しています。
 第6章では、進行する高齢化について質的・量的に分析し、所得格差が広がる高齢者に対して生活保護と年金を中心にした所得保障政策を考察し、低所得高齢者向け最低生活保障制度を提案しています。
 第7章では、生活困窮者の支援の一環としての家計再生ローンについて述べ、フランスの事例を参考に、相談支援をセットにした日本版の家計再生ローン導入について考察しています。
 全体を通してコンパクトで読みやすく、また各章の最後には読者の皆さんに理解をさらに深めていただくための参考図書が「ブックガイド」として紹介されています。
 全国の書店で発売中です。ぜひお手にとってご一読ください。