医療保険編「退職後の健康保険制度」

今回は医療保険の応用知識として「退職後の健康保険制度の選び方」のポイントをご紹介します。退職後も何らかの公的健康保険制度に加入することになりますが、いくつか選択肢があります。加入にあたっては手続き期限がありますので、退職前に情報収集しておきましょう。

選択肢と概要

選択肢 ①健康保険の任意継続被保険者になる ②国民健康保険に加入する ③家族の健康保険の被扶養者になる ④新たな勤務先で健康保険に加入する
加入要件 資格喪失日の前日まで継続2か月以上被保険者であったこと ほかの公的健康保険制度に加入していないこと 60歳以上の場合:年収180万円未満であることなど 所定労働日数と所定労働時間で判断
保険料 保険料の全額を自己負担※1 上限あり 保険料の全額を自己負担※世帯単位 不要 標準報酬月額・標準賞与額×保険料率※1
適用期間 原則、2年間 原則75歳になるまで 原則75歳になるまで 原則75歳になるまで

(※1)保険料率は都道府県ごとに異なります。協会けんぽの場合、任意継続被保険者は退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合は、標準報酬月額は30万円で保険料を計算します。なお、健康保険組合の場合は各組合に確認して下さい。



選択肢1:健康保険の任意継続被保険者になる

退職して健康保険の被保険者資格を喪失した場合、「任意継続被保険者」として在職していた勤務先の健康保険制度に引き続き加入することができます。
健康保険の任意継続被保険者になるには、在職中に被保険者期間が継続して2か月以上ある人で、退職日の翌日から20日以内に住所地を管轄する全国健康保険協会(協会けんぽ)の都道府県支部または各健康保険組合に手続きが必要です。
被保険者となることができる期間は退職後2年間で、家族も引き続き、被扶養者になります。
任意継続被保険者の保険料は退職した時の標準報酬月額(令和5年度の協会けんぽの上限は30万円。健康保険組合は各健康保険組合に問い合わせをしてください。)によって決まります。
なお、在職中は、被保険者と事業主の折半で健康保険の保険料を負担していましたが、任意継続被保険者の保険料は全額自己負担になります。
注意点は保険料を納付期日までに納付しなかったときは任意継続被保険者の資格を喪失することです。
任意継続被保険者は、原則として、在職中と同様の保険給付が受けられます。
なお、退職日まで継続して1年以上被保険者であった人が、退職日時点で傷病手当金や出産手当金を受給しているか、あるいは受給条件を満たしている場合を除いて、傷病手当金と出産手当金を受給することはできません。



選択肢2:国民健康保険に加入する

居住地の市町村(特別区を含む)が運営する国民健康保険に加入する方法があります。
加入手続きは資格喪失後14日以内で、手続きは居住地の市町村(特別区を含む)役場で行います。
国民健康保険の保険料(税)は、市町村(特別区を含む)ごとの基準(「所得割」、「資産割」、「均等割」、「平等割」の4種類の組み合わせ。)に基づいて、一世帯あたりの年間保険料(税)を計算します。
勤務先を退職した人の場合、前年の所得に基づいて計算されるため、在職中の賃金が高いと保険料が高額になることがあります。事前に保険料の試算を依頼しましょう。
なお、扶養家族がいる場合には、家族の人数に応じた保険料も負担することになります。
国民健康保険の保険料(税)は4種類の組み合わせの仕方やそれらの金額や保険料率などは各市町村(特別区を含む)によって異なるため、居住地によって一世帯あたりの保険料が異なりますので、退職前に居住地の市町村(特別区を含む)役場で保険料(税)を試算してもらいましょう。
なお、国民健康保険料(税)は倒産や解雇など非自発的失業者に対し、国民健康保険料(税)の軽減制度があります。


【用語解説】

所得割 その世帯の所得に応じて算定する方法。
均等割(被保険者均等割) 加入者一人あたりいくらとして算定する方法。
資産割 その世帯の資産に応じて算定する方法。
平等割(世帯別平等割) 一世帯あたりいくらとして算定する方法。


選択肢3:家族の健康保険の被扶養者になる

退職後、配偶者や子どもなどが加入している公的健康保険の被扶養者になる方法です。
主として被保険者の収入で生計を維持している75歳未満の人で、一定の要件を満たさなければなりません。

【被扶養者になれる人の範囲】

1.主として被保険者に生計を
維持されている人(注1)
2.被保険者と同一の世帯(注2)で主として被保険者の
収入により生計を維持されている人

被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚でも可)、子、孫、弟妹、兄姉

  • ① 被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
  • ② 保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
  • ③ ②の配偶者が亡くなった後における父母および子

(注1) 「主として被保険者に生計を維持されている人」とは、被保険者の収入により、その人の暮らしが成り立っている人のことをいい、 かならずしも、被保険者と一緒に生活をしていなくても構わない。

(注2) 「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態のことをいう。

★被扶養者になれる範囲であっても、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は除きます。

【生計維持関係は生活の実態に合わせて判定】

認定対象者が被保険者と同一世帯の場合 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害者の場合は180万円未満)、かつ、原則として被保険者の年間収入の2分の1未満であること 認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助(仕送り)による収入額より少ないこと

加入手続きは資格喪失から5日以内に家族の勤務先を通じて行い、保険料の負担はありません。


【平成28年10月以降の取り扱い】
上記被扶養者の範囲と基準を満たしていても、下記5つの要件をすべて満たす人は、被扶養者でなく被保険者になります。
①週の所定労働時間が20時間以上、②勤務期間が1年以上見込まれること、③月額賃金が8.8万円以上、
④学生以外、⑤従業員501人以上の企業に勤務していること。
なお、勤務期間については、2か月を超える雇用の見込みがあること、従業員数は101人以上(令和6年10月からは、従業員51人以上)と改正されています。


【令和2年4月以降の追加要件】
令和2年4月1日から「健康保険の被保険者に扶養されている者(被扶養者)」の認定要件に新たに追加されました。
《国内居住要件》
原則として日本国内に居住していること
《国内居住要件の例外(海外に居住しているが被扶養者となる人)》
日本国内に住所がないとしても、日本国内に生活の基礎があると認められる者として、国内居住要件の例外として取り扱われます。


【国内居住要件の例外となる人】
①外国に留学をする学生
②外国に赴任する被保険者に同行する人
③観光、保養またはボランティア活動その他就労以外の目的での一時的な海外渡航者
④被保険者の海外赴任期間に当該被保険者との身分関係が生じた人で、②と同等と認められるもの
⑤上記①から⑤までに掲げられるもののほか、渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる人



選択肢4:新たな勤務先で健康保険に加入する

雇用継続や転職をし、新たな勤務先が健康保険の適用事業所の場合には新勤務先で健康保険制度に加入することになります。
健康保険に加入するには判断基準があります。次の(ア)および(イ)のいずれにも該当する場合は、原則として被保険者になります。

(ア)所定労働日数
1か月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上であること

(イ)所定労働時間
1日または1週の所定労働時間が一般社員の4分の3以上であること