被災地の復興に向けて

寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所会長

■東北全体の復興構想

私としては、より大きな構想力の中で東北の復興を考えなければいけないという立場にあります。

このブロックを、どのような産業と役割期待において国土のグランドデザインの中に位置づけるのか。この議論はものすごく重要です。いま欠けているのが、東北6県の県知事とここを基盤にする政治家が結束して、このブロックを復興庁という枠組みの中でどのような地域としてよみがえらせるのかという構想力です。この大きな構想力がいま本当は問われているのです。

例えば、これからは観光立国ということが重要になってくるというのは誰もが言うわけですけれども、2泊3日で3万円の観光ツアー客をかき集めても、絶対に観光立国にはなりません。世界の観光産業で隆々たる付加価値を生み出している国を分析しても、必ず、国際機関など、そこに行かねばならないというところを持っています。例えばジュネーブには15の国連機関が本部を持っているため、ジュネーブのホテルは1泊1000ドルもするのにいつも満杯になっています。ジャーナリスト、学者、その分野に関わっている人たちが行かざるを得ないことが起きるからです。

ですから例えば福島に今後、世界の原子力の安全性や、原子力に関するさまざまな情報のベースキャンプを設ける。この関連の人たちがIAEAに行って情報を取るのではなく、福島にやって来て会議が開かれたり交流が行われたりするようなベースキャンプを、例えば白河の関から那須塩原あたりにつくる。再生可能エネルギーにかけるならば、世界の中心的な再生可能エネルギーの国際機関はUAE(アラブ首長国連邦)にあるのですが、そこと連携してはどうか。そういう国際的な広がりのある国家的な機関を福島に立地させていくような流れをつくる。そういう視界を持つべきだと私はつくづく思います。

■寺島氏からのメッセージ

被災地を背負って戦っておられるお二人の、心に火が灯るような話を聞かせてもらって、得るところが大きかったなと思っています。そういう中で日本はわずか3年前の3.11を忘れかけていて、マネーゲームに狂奔し始めています。日本株がいま上がっている理由は、外資、ヘッジファンドが日本の復興を祈って買ってくれているのではないです。日本を草刈り場として、超金融緩和という状況の中で日本に17兆円に迫る金をつぎ込んで来ています。日本人は外資が買ってくれているのをいいことに、株を売り抜いています。

一方そのマネーゲームの陰で進行していることは格差と貧困です。日本ではいま、資産格差というのが確実に進行しています。

われわれは健全な資本主義というものをしっかりと持ちこたえていくという問題意識を持たないといけません。マネーゲームに酔いしれていてはいけないのです。日本が本当にやるべきことは財政の再建と国民にとっての減税だろう。

そうして被災に立ち向かっている現場の苦悩が早くも忘却の中に入り始めている日本の中で、こういう種類の試みを通じて、日本という国を正気に返らせなければいけない。そういう思いを強くして、今日の会を締めくくらせていただきたいと思います。


文責:全労済協会

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