第1部:講演

復興への基軸~世界の構造転換と日本~

寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所
会長

■実体化への回帰を

東北の復興を考えるにあたり、世界の動きからお話します。

先日アメリカに行った際に、1年前は"反原発・再生可能エネルギー"を掲げていたのに、今は株の話題に沸いている。日本人はどうなっているんだといわれました。今の日本人は、別の意味で思考停止しているのではないでしょうか。

確かに、株価は上昇しています。しかし、今の株価上昇の本質は、いわゆる"外人買い"の効果。それも、その目的は日本再生のための投資というより、短期に売り抜く資本主義がその実態といえます。「モノを作らない経済」の限界、マネーゲームの空気は危険です。21世紀初頭からリーマンショックまでの世界経済の7年間は、異常だったという省察が必要です。ここに来て、リーマンショック直前の川上インフレ・川下デフレといわれるねじれ現象が浮上し、物価は上がるが所得にはつながらない状態です。

昨年、日本は化石燃料などエネルギー関連で24.1兆円、食料で5.9兆円、2つ合わせて30兆円を輸入した。今年、この2つの輸入量が、仮に昨年と同じとすると、当時に比べ約2割円安の現在、輸入額としてはすでに約6兆円の輸入増となります。海外からの食料輸入を1兆円減らして、競争力のある日本の食料・食材を今の約5000億円から1兆円くらいに高めると、日本の産業構造は安定するのではないか。そして、その重要な役割を東北は担っていくべきではないか、と思います。

■アジアダイナミズム

東北復興を見ると、県ごと、市町村ごとには頭が下がるほど頑張っているが、著しい構造転換の中で、新潟を含めた東北全体の復興として捉えなければならないことを改めて提言したいと思います。人口減少・高齢化が進むこの地域で、どんな産業プロジェクトを見いだし進めていくか。その際の方向感覚として、いかにアジアダイナミズムと向き合うかは重要です。

世界港湾ランキングでは1位の上海から8位までがアジアで、アジアダイナミズムに伴い物流も劇的に変わり、日本海物流の時代。宮城でいえば、仙台空港や仙台港と山形の酒田港の連携が大切になるでしょう。

■プロジェクト・エンジニアリング

産業の芽となる創造的プロジェクトは、芽生えているのか。台湾での復興支援シンポジウムでは期待を込めて「賢い日本人のことだから、そろそろ我々には考えもつかないプロジェクトができているだろう」といわれました。

阪神淡路大震災の時と比べて、ものすごく進歩したのは携帯電話とコンビニです。一方、全く進化していないのが住環境。この問題を考える時、道の駅が重要な防災拠点になり得ます。風呂、トイレ等を設備した「水回りコンテナ」、最小限の医療設備を整えた「医療コンテナ」、カプセルホテルのような「住環境コンテナ」を、道の駅にスタンバイさせておけば、震災が起こったら瞬時に動かせる。防災産業の柱にもできるはず。

個別の芽は出ていますが、さらに目線をあげて、創造的で海外の人が見に行きたいと思える復興プロジェクトを創造したい。そのために必要なのがプロジェクトエンジニアリング。個別の要素を組み合わせて、一つの問題として束ねてまとめて解決していく力が、今、必要です。