第2部:パネルディスカッション

99%自立可能な社会へ
~社会的包摂の実現を目指して~

宮本 太郎 氏

コーディネーター宮本 太郎 氏中央大学法学部教授

勝部 麗子 氏

勝部 麗子 氏豊中市社会福祉協議会
事務局次長 兼
地域福祉課長

山口 二郎 氏

山口 二郎 氏北海道大学法学部教授

片山 善博 氏

片山 善博 氏前鳥取県知事
元総務大臣
慶應義塾大学法学部
教授

宮本 太郎 氏

支え合いながらも自分のことは自分で決められるのが自立の定義とすると、今、どういうことが自立や生活保障に関して進行していますか。

勝部 麗子 氏

豊中市社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカーとして、社会的困窮者の生活相談を受けてきました。コミュニティソーシャルワーカーの仕事は、ボランティアとともに地域でSOSを出せない住民の課題を発見し、制度の狭間の課題を公民協働で解決していくものです。さらにゴミ屋敷などの問題を住民が協力し解決する仕組みや引きこもりや認知症の方の徘徊といった、顕在化しなかった問題も共有し、解決の仕組みとしてセーフティネット作りを行っています。

山口 二郎 氏

安倍政権の内閣支持率は高止まりです。国民は成長戦略が自分の生活を向上させるとは思っていないけれど政権は支持する、というねじれが起きています。しばらく続きそうなこの一党体制の中で、今後、対抗軸を作っていくには理念を固める作業が大切。永田町の再編というよりも、例えば東京都小平市で今年5月、都道建設計画を見直すべきかを問う住民投票がありました。成立はしませんでしたが、こんなふうに住民が地域の問題に自ら関わり、力をつけることが重要です。地域で動くことが民主主義と自立につながります。

宮本 太郎 氏

地域の声はなぜ豊中のように広がらないのでしょうか。

片山 善博 氏

新しい課題が起きたり、本当に困っている人がいても解決されないのは、制度や法律がないと行政からなかったことにされてしまうから。そんな中で豊中市は問題の解決にこぎつけていて感心します。解決には中央集権の仕組みを変える行政改革が必要ですが、役人は縦割りの権限を放さないので難しい。役人を変えるのは政治家ですが、国会議員も縦割りに組み込まれてしまっている。そんな時に問われるのは我々一人一人の市民です。国会議員を選ぶより、市区町村の議員を選ぶ方が重要なんですよ。何でも国に制度を作ってもらって安心してはいけません。

勝部 麗子 氏

これまで仕事が見つからないのは個人の責任と言われていました。生活困窮者も生活保護基準になるまで支える手立てもないということが現状でした。また、役所は制度に当てはまるか当てはまらないかで仕事を行うため、狭間の課題を積極的にキャッチできず、支援方策をなかなか主体的に見つけられませんでしたが、豊中には総合相談窓口として「断らない」コミュニティソーシャルワーカーが配置されたことで、生活困窮や社会的孤立などのさまざまな課題が見えてきて、助けられるようになりました。断らない窓口ができたことは大きなことでした。

山口 二郎 氏

今から40年ぐらい前は生活基盤が劣悪だったため、住民は現実的な必要性を感じて行政に対して声を上げていました。しかし、21世紀はかつてのように物的基盤や法律上の規制をつくる必要がある状況ではありません。社会構造の変化がもたらした、引きこもりや孤立、孤独など新たな問題が顕在化する中で、個人の努力に限界を感じている人が多いのではないでしょうか。

2013年11月9日浅草橋ヒューリックホールでのシンポジウム会場の様子_2

片山 善博 氏

問題は霞ケ関にもありますが、自治体にもあります。小平市の住民投票の際、住民の一人が「本当は住民投票をしたくなかったが、説明会は一方的で、どこも意見を聞いてくれなかった」と語っていました。その通りだと思います。まなじり決して鉢巻きをしめなくても意見を言える場所があることが理想です。そのために必要なのは議会の改革。変な議員を選べば変な議会になる。地方自治は自業自得なんですよ。日本の議会は市民を排除して、ただの「傍聴人」にしますが、今起こっている問題は当事者に聞けばいいのですから、もっと普通に市民が意見を言えるようになればいいのにと思います。

山口 二郎 氏

生活保障にとって良い条件の政治を考えた場合、大切なのは人間の生活を起点とする政策だと思います。このごろ、大学で教えていると「グローバル人材」という言葉がよく聞かれてうんざりするんですが、豊かな社会というのは地域や人間の多様性が守られる社会。それを可能にするような行政の仕組みをつくることが重要だという理念を広げていきたいと思います。

勝部 麗子 氏

市民が意見を言うと、行政はどうしても市民を苦情の相手と見て身構えます。これは、協働のための信頼の関係づくりがなかなか進まなかったからだと思います。行政責任と言いながら市民が行政任せにしている点、逆に、行政は住民主体と言いながら住民任せにしている点が考えられます。そういう意味では、私たちのような中間組織が、市民が自分たちの地域の問題として考えられる場作りを提供し、行政と協働を進めていくことが重要だと思います。

片山 善博 氏

私も「グローバル人材」という言葉は気に障ります。強いものに焦点をあてて頑張らせる風潮も気になります。私が人材を育てるとしたら、正直でウソをつかない人材を育てたい。今はそうではないから偽装表示の問題が起きてしまうんです。政治も、しなければいけないのは弱い者の味方をすること。声の小さい人、立場の弱い人にこそ焦点をあてなければいけません。それが今の一党体制の対抗軸の基盤になると思いますが、今はそうなっていないのが現実ですね。

宮本 太郎 氏

会場の皆さんにメッセージをお願いします。

山口 二郎 氏

現状にあまり悲観していません。正義感を持ち、世の中の矛盾に向き合おうとするマインドを持っている若者は依然としているということを教師として実感していますから。

勝部 麗子 氏

独りぼっちの人を地域の中で作らないでほしい。町の中で寂しいと思っている人をなくす取り組みをしてほしいです。社会的孤立こそ生活困窮の最も大きな課題。99%自立可能な社会の残り1%は皆さんの周りを気遣う優しさかもしれません。

片山 善博 氏

世の中にはいろんな問題がありますが、人ごとと感じている人が多いです。でも、もし自分だったらと考え、自分の問題としてとらえてほしい。私が知事の時も、自分のふるまいを一人の市民として見たらどう思うかをいつも考えるようにしていました。常に自分のこととして考える癖をつけていただきたいです。

【基調講演】出典:毎日新聞
【パネルディスカッション】出典:毎日新聞
【写真】毎日新聞提供

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