第2部:パネルディスカッション

静岡の未来をともに考える
~ふじのくに静岡・ものづくり県静岡の未来~

片山 善博 氏

片山 善博 氏早稲田大学
政治経済学術院教授

川勝 平太 氏

川勝 平太 氏静岡県知事

鈴木 康友 氏

鈴木 康友 氏浜松市長

■地域の魅力をフルに生かす

松本 志のぶ 氏

川勝知事と鈴木市長、基調講演の感想からお聞かせください。

川勝 平太 氏

片山さんのお話では、鳥取はないない尽くしとのことでしたが、知恵はありましたね。現知事の平井さんが片山さんの知事時代の仕事を見事に受け継がれています。われわれはバント作戦ではなく、ヒット作戦で片山さんの業績から学びたいと思います。エネルギーの地産地消はもちろん、439もの日本一豊富な食材も地産地消を原則に、16兆円というニュージーランド一国並みのGDPを有効活用したいと考えています。

鈴木 康友 氏

私が参加した当時の松下政経塾の塾長だった故松下幸之助さんは「こんな経営では将来、日本は大変な借金を抱えて行き詰まる」と見抜いていました。片山さんの奮闘ぶりを伺って、東京一極集中から脱し、地方創生を目指して地方分権、さらには道州制移行への準備を進めるべきだと感じました。

松本 志のぶ 氏

お三方の立場から見た静岡の魅力とは何でしょう。

片山 善博 氏

鳥取にいた頃は、静岡がうらやましかったですね。財政力が豊かで、大企業の製造部門もあります。面積も広く、観光地、歴史など多様です。こんなに恵まれているのですから、静岡県民の皆さんはもっと誇りを持つべきです。

川勝 平太 氏

本県には「場の力」があります。
4年前の6月22日、富士山が世界文化遺産になり、これを機に、静岡の茶草場農法が世界農業遺産、南アルプスがエコパーク、駿河湾が世界で最も美しい湾クラブに認定されるなど、美しい景観に恵まれています。文学者の川端康成が伊豆を「海と山の風景の画廊」と言いましたが、静岡県全体をそう表現できます。

鈴木 康友 氏

浜松市は平成17年に12市町村が合併し、政令指定都市になりました。
産業の力で発展してきた都市であり、民間の力で成長し、自力で政令指定都市になったのは珍しいと思います。合併で膨大なインフラを抱えましたが、これらを上手に運営できれば、地方創生のモデルになるはずです。
私はこの10年間、徹底して財政改革を行い、国際的な格付け機関から最高の経営評価をいただきました。これが地方の自立だと思います。国におねだりするだけではだめで努力が大事です。
ほかにも林業再生のためFSC(R)=森林認証を行う非営利の国際NGO=の国際認証を10年かけて取得しました。いずれ浜松ブランドの木材が新国立競技場でたくさん使われるでしょう。太陽光発電などの再生可能エネルギー、市民の声から生まれた浜松餃子、直木賞で知名度が高まった浜松国際ピアノコンクールをはじめとする音楽のまちづくり、徳川家康や井伊直虎など歴史上の人物に「出世の街」をからめたPRなど、地域資源の活用で盛り上げています。

■産業力をテコ入れ 教育にも注力

松本 志のぶ 氏

地域振興の戦略についてお聞かせください。

川勝 平太 氏

医療機器・医薬品・化粧品の国内生産額は静岡県が日本一です。
「健康と美」の関連産業をアジアへの輸出産業にしようと力を入れています。今注目の新素材、セルロースナノファイバー(CNF)の生産も応援しています。
人づくり・教育はすべての基礎です。子供の教育は社会総がかり・地域総ぐるみで行い、人種・国籍・貧富にかかわらず、すべての子供に良い教育を施すことを目指しています。

鈴木 康友 氏

浜松は産業都市ですが、これが弱点に変わる可能性もあります。
もし浜松から産業がなくなったら、ものの見事に街は衰退します。米国のデトロイトを見ればお分かりでしょう。自動車産業がすいたいしたら一気に崩壊しました。
ですから産業力は大事です。豊かな雇用がないと若い人たちは定着しません。そこで昨年から創業支援、ベンチャー企業の育成・誘致を始め、浜松に一大ベンチャーが生まれる環境を目指します。

■知恵と汗で広域連携を推進

松本 志のぶ 氏

真の静岡地方創生のためにしなければならない必要なことは何ですか。

鈴木 康友 氏

地方創生は地域自ら特徴を把握して、知恵も汗もかいて頑張ることです。
自分たちの行政の枠で考えることも必要ですが、広域連携がこれからはとても大事です。スケールメリットを生かせ、コストダウンもできます。
今後、そのような広域連携をしていけば、道州制にも結び付くと思います。県や市、行政の枠組みをとりはらって、広域で取り組んでいくのが真の地方創生だと思います。

川勝 平太 氏

静岡県民の健康寿命は世界トップクラスです。
平均寿命と健康寿命の差を縮めるのが課題です。健康に大切なのは運動の継続と社会参加と食事の三つです。本県の439もの日本一多い食材をいかして、和食、洋食、中華、その他いろいろな食を「和」して「和の食の都」にします。
また豊富な食材を輸出向けにアピールします。また、地域の歴史、文化、伝統、食を学ぶ「ふるさと学」で育まれる「郷土愛」を観光に生かします。交通インフラでは、中部横断自動車道、三遠南信道、伊豆縦貫道の整備を強力に進め、また新東名高速道路を活用した物流・生産拠点・多様なライフスタイルを提供する「内陸のフロンティアを拓く」プロジェクトの成功を受けて拡充していきます。

松本 志のぶ 氏

片山さんが思われる、静岡県の未来にとって重要な点をお聞かせください。

片山 善博 氏

多くの自治体が中央政府に遠慮しているか、それに従う傾向が強いですが、もっと自分本位に考えるべきです。中央政府、省庁の意思に反しても、地域の利害を表明することがあってもいいのではないでしょうか。
それぞれが国の政策を地域本位で考える。地域にどんな利点と欠点があるかを考えることが地方創生には大切です。客観的に国の政策を検証し、取捨選択していく。そんな態度が必要だと思います。

出典:2017年7月25日(火)静岡新聞

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