第2部:パネルディスカッション

真の豊かさを求め、今こそ改革を。

今井 純子 氏

コーディネーター今井 純子 氏NHK解説委員

植田 和弘 氏

植田 和弘 氏京都大学大学院
経済学研究科教授

浜 矩子 氏

浜 矩子 氏同志社大学大学院
ビジネス研究科教授

大塚 耕平 氏

大塚 耕平 氏参議院議員
早稲田大学・中央大学
客員教授

広井 良典 氏

広井 良典 氏千葉大学 法経学部教授

今井 純子 氏

今回の震災は、日本の進むべき方向性にどんな影響を与え、何をあぶり出したのか。一方、何か新しい変化はあったのでしょうか。

広井 良典 氏

東日本大震災は、日本が元々抱えていた課題を鮮鋭化させたと思います。経済問題や地域コミュニティーの希薄化を含め、この国の「幸福度」をどう考えていくか。日本は今、大きな転機を迎えています。

植田 和弘 氏

震災の復興は、生活再建が何よりも重要です。その上で、中長期にわたってその地域で暮らしていける基盤をどう作り、どう発展させていくか。この問題を考える切り口のひとつに、エネルギーがあります。例えばデンマークでは、農家が三軒集まると風力発電所を作る相談をします。理由は、電力の買取制度によって利益が得られるから。自然エネルギーを核にした地域経済戦略は、今後の日本が考えるべきひとつの方向性です。

浜 矩子 氏

とてもおもしろい発想ですね。日本でも実現できれば、地域に地力がつきます。しかしそれは、自己完結性を追求するため、閉鎖的になる恐れもあります。開放性とどう両立させていくかが試されます。

大塚 耕平 氏

NIMBY(ニンビィ/Not In My Back Yard)シンドロームも留意すべき課題です。公共政策で使われる言葉で「私の裏庭で、私の嫌なことはしないでくれ」という意味です。日本人はこの傾向がやや強い。その心理が今の社会情勢や財政状況と関連していないか、考える必要があります。

今井 純子 氏

様々な課題がありますが、乗り越えていくための方法はありますか。

浜 矩子 氏

突破口として私は、ニンビィをもじって①YIMBY(インビィ/Yes In My Back Yard/私の裏庭においでください)②PIMBY(ピンビィ/Please In My Back Yard/どうぞ、わが裏庭に)③WIMBY(ウインビィ/Welcome In My Back Yard/大歓迎です)を提案したい。自己完結性を追求しながらも、全員がそれらを実践すると、開かれた関係性の中で地域が結びつき、道が開けていくのでは。

植田 和弘 氏

ニンビィ問題は、当事者であることを忘れた時に起こります。「自分のこと」と思うことから新しい発想につながります。インフラの面では、日本でも電力の固定価格買取制度が法律化されたことは、ひとつの出発点になります。

広井 良典 氏

これからの時代、標準化できる工業技術は途上国に移っていきます。つまりグローバル化よりも、地域で循環する経済が重要になるということ。最後に残るのは、地域固有の技術や伝統です。それぞれの地域が豊かになれば、結果として日本が元気になる。そういう発想が鍵を握るのでは。

大塚 耕平 氏

マインドとして「何かをやめる勇気」をもつことが必要です。新しい地域社会を作るためには財源がいります。例えば、予定されているダムの建設をやめると、その費用を捻出できるかもしれません。「まだ大丈夫は、もう危ない」という危機意識が、問題解決を促してくれるのです。

今井 純子 氏

新しい日本の社会に向けて、私たちは何をしていくべきか。政治や地域を含め、第一歩として何をしていけばいいのでしょうか。

広井 良典 氏

私は、経済成長を目標にしなくても、十分な豊かさが実現していく「定常型社会」が出発点になると思います。そのためには、高度成長期の成功体験から脱却し、ローカルな地域コミュニティーから物事を考えていくことが大切です。

植田 和弘 氏

同時に、グローバルな構想も必要でしょう。日本の経済危機は、世界の動向の影響を受けていますから。ローカルとグローバル。双方に対応していくことが、日本社会の進むべき方向性だと思います。

浜 矩子 氏

私は皆を束ねていくキーワードとして「陰謀」を掲げたい。復興のための陰謀、繁栄のための陰謀にみんなで参加する。真の豊かさのために団結すると、向かうべき道が見えてくるのではないでしょうか。

大塚 耕平 氏

「陰謀」を進めるためには「変える勇気」も求められます。日本が転換期に直面しているという認識を共有できるなら、何かを変えてみるというところから、新しい社会が開けていくのではないでしょうか。

2011年11月11日全労済ホール スペース・ゼロでの様子

今井 純子 氏

やめる勇気、変える勇気は一人ひとりが意識すべきものですね。陰謀の具体案はありますか。

広井 良典 氏

例えば別府温泉のある大分では、地熱発電が盛んです。風土に根ざした自然エネルギーに力を入れていくと、雇用促進や地域再生にもつながります。

植田 和弘 氏

陰謀とは、話しあう機会を増やすことではないか。その上で地域の経営力を考える。つまり、生活ニーズを見つけて解決していくコミュニティービジネスの拡大です。そういった戦略が的確な陰謀かと思います。

大塚 耕平 氏

最初からビジネスと考えるのではなく、地域活動と思えば気軽に始められます。NPOなどの成功事例の多くも、利他の精神で始めたものが結果としてビジネスにつながっています。

浜 矩子 氏

陰謀のエネルギーが最も形成されるのは、向かう相手が明確な時。何が問題か、何を突破すべきかを共謀することがポイントです。そして、知的レベルの高い怒りを共有するところに、高品位の陰謀が現れるのです。



出典:読売新聞 2011年11月16日朝刊 全国版掲載
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