低所得者対策の課題

―社会保障・税一体改革が進められておりますが、駒村先生は社会保障審議会の生活保護基準の部会長ということで、特に重要なテーマの1つである生活保護についての議論に参加されています。生活保護制度の見直しについては、どういった視点で議論されているのでしょうか?

社会保障審議会の生活保護基準部会では、今の扶助の基準がどのぐらいの水準なのか、これを確認する作業を行っています。統計データを使い、平均的な国民の支出額の6-7割、あるいは国民の下位10%の方の支出額と比較して生活扶助の水準がどの程度の高さにあるのかを検証することになります。従来目標になってきたような水準が維持できているのかどうかをチェックするので、極めて統計的・技術的な議論になってきます。そういう意味では、この秋から本格的な内容に入っていくと思います。

もう1つ、生活保護制度自体はいま受給者が210万人を超え、戦後最高の記録になっています。ただ、その中の半数の方は高齢者です。高齢者自身は収入も少ないので貧困率自体も高いわけです。こういうもともと貧困率の高い高齢者の方たちが今後増えるので、生活保護を受給する方の数は増え続けるのではないかと思います。そういう意味では、やはり高齢の低所得の方は年金で何とかきちんとサポートすべきではないかと思います。そのため、生活保護改革だけではなく、年金も入れた一体的な改革にしなければいけないと思います。

もう1つ低所得者として増えているのが、いわゆる20代から30代の若年層、あるいは現役層の方です。数自体は多くないのですが、ペースとしてはやはりリーマンショック以降増えているのは間違いないと思います。こういう働ける可能性のある方たちに対し、どういうサポートをしていくのかも課題だと思っています。

生活保護からの脱却

―生活保護を受給されているさまざまな方を、そこから脱却するようにサポートができるかということも大変大事なテーマだと思います。自立の助長を目指し、それに向けて努力していくべき方向性については、いかがでしょうか?

生活保護からの脱却について、「職業訓練」「住宅確保」「教育支援」を3本柱にしている、埼玉の取り組みは大変注目しているところです。

例えば年金をもらっている高齢の方であれば、住居さえ保障できれば生活保護を受けなくて済む方も多いのです。そういう意味では、住居を確保してあげる。国の政策としては住宅手当のようなものを別途用意してあげたほうがいいのではないかと私は思いますが、少なくとも住居の保障、居宅の保障に着目しているのは正しいと思います。

就業もその方が持っている資格や経験があります。健康状態を害している方は健康状態、あるいは仕事からしばらく遠のいている方は就労意欲を高める期間が必要かと思います。その方が持っている資格や経験を生かせるように誘導していく。

教育については、被保護世帯の子どものことですが、貧困の連鎖が大きな問題になっています。埼玉県でやっている取り組みは、子どもの居場所をまず保障してあげる。子どもたちに対し、社会がちゃんと見捨てないで期待していることを教えてあげる。なおかつ学力も高めてあげるのがポイントになっているので、いずれも正しいと思います。

この際にやはり重点を置いてもらいたいのは、例えば生活保護の給付を削減する、有期にする、減額するといったかたちで脅して自立に向かわせるのではなく、その人の持っている可能性や健康状態、教育状況に着目して、少し時間はかかるけれども、後退しないで着実に自立できるようなサポート、かなり個別に工夫したサポートが必要ではないかと思います。

給付をカットするような脅し型でいく自立支援は「ワークファースト」とか、「ワークフェアモデル」と言われています。

日本において、生活保護を受けている方はかなり絞り込まれていて、いろいろな課題を抱えています。そのため、時間はかかるけれども確実な方法として私はその人の持っている可能性を引き出していくほうがいい方法ではないかと思います。このような方法は、「人的資本投資型」とも言われています。