身近な資源の活用から

―大切なのは、プロデューサーと、その地域に生きている皆さんとの関係ですよね。そういう点では上勝町も一次産業が中心の地域社会ですし、東日本大震災の被災地も農林、漁業を中心に、一次産業中心という点で非常に似通っている。しかも高齢化が進んでいる点でも、上勝町の経験が、東日本大震災からの復興についても大変参考になることが多いのではないかと思うのですが、その辺りはどうでしょうか。

東北地域は一次産業がすごく盛んなところですが、非常に壊滅的な被害を受けた中で、これまでと全く違うものを持ってきてそこでやることは駄目だと思います。
上勝町も同じだったのですが、向こうにいいものがあるからこっちへ持ってこよう、あっちにいいものがあるからこっちへ持ってこようということを考えるより、今までの経験や知識をどう生かしていくかということから、ビジネスを考えていくほうがいい。得意なところを活かしていくということですね。東北地方で言えば、やはり一次産業です。
足元にいいものがあるのだから、あるものをどれだけ輝かせることができるかというところに焦点を置いたほうがいいと思ったのです。
でも、その地元の人たちというのは、きちんと市場に出ている、ある程度認められているようなものでなければ、自分たちがやることが恥ずかしいとか、格好悪いということを思ってしまうのです。
田舎の人は、自分ができないとか、駄目だとか、貧しいとかいうふうなことを言われるのが、大嫌いです。だから、ある程度評価の高いものでなければ、それがいいものでないという感覚を持ってしまっているのです。
でも、足元というのは逆であり、そうでないものにもものすごく素晴らしい資源が、宝があるということです。葉っぱがそうだったのです。
葉っぱは日本の国、山の中、どこにでもあるのですが、「葉っぱを売ろうよ」と言ったときに、「葉っぱをお金に換えるのはタヌキやキツネのおとぎ話だし、そういうものをやるのは貧しい人がすることだ。自分はどんなに貧しくてもそんなことはしたくない。隣の人にこんなものを売って生活しているというのを言われるのが恥ずかしい。」と言われました。
これを被災地に置き換えてみると、市場評価のないものをやってみると、「あの家ってそんなことやってるよ。駄目だね。」と言われることに対し、すごい抵抗感を持つと思います。
しかし、そこに生まれているモノの中に、実は磨けば光輝く原石のようなものがあるのです。ところが、地元のひとにはそれが全く逆に見えるんです。磨けば光るのだけれども、住んでいる人から見るとこれが原石には見えない。ここが大きな分かれ目のような気がします。そこをどうやってプロデューサーが「これは、価値があるんだよ」、「こういうものをやったら面白いよね」というところへ、どうプロデュースできるかという点が決め手になると思います。

資源というのは、山の資源、海の資源、川の資源とたくさんあります。被災地には海が多いのですが、私から見ても、例えば海草であったり、貝殻一つであったりとか、砂であったりとかいうようなことでも、すごい資源でしょうね。しかし、それがどういうところで、どのように使われていて、どういう価値観を持っているかという現場を知らなければ、そこにはつながらないです。田舎で生活していると、都会で使われている現場とか、そういうところへ入り込めないというか、つながって見えていないのです。
だから私の場合は、例えば料亭ではどういう葉っぱが使われているか、弁当屋さんではどういうのを使っているかとかいうふうな現場をしっかり見て回りました。なるほど、うちの山にある葉っぱはこのようにして使われているのだ、こういう価値があるのだということを見つけて、伝えてあげる。そして、実際に使われている現場を見せてあげることです。そのつながりから見えてくる価値観のようなものを常に生活の中に入れていくことがなければ、ずっとそこで生活してきた人は、そのことに価値があることに気がつかないのです。
モミジの葉っぱもそうだったのですが、大阪のがんこ寿司に行ったときに、かわいらしい女の子がモミジの葉っぱを持って、「うわー、かわいいモミジだね」「これ、包んで持って帰ろうよ、押し花にしようよ。」と言って、きれいなピンクの絹のハンカチに葉っぱを乗せて、大切そうに包むのを見たときに、「あんな葉っぱ、うちの裏庭に幾らでもあるのに。でも、あのハンカチに包んでもらえるほど、価値があり、大切なものなのだな。」ということに気が付いたのです。それは地元にいては気が付かないことであり、都会でのそういう感覚がすごく大切なのです。 貝殻なども多分、すごく色がきれいだったら、これかわいいな、家へ帰ってちょっと自分の部屋に置いてみようとか、こんなふうにして使ってみようというような、すごい需要があると思います。
やはり現場を知る。より近いところで現場を自分の中の感覚でつかんでいくことが必要だと思います。