人生90年時代を快適に生きるために

秋山 弘子 氏

東京大学 高齢社会
総合研究機構 特任教授

東日本大震災の被災地は、高齢化が大変進んでいる地域であり、農林水産業など一次産業を中心にした地域と言えます。現在でも復興がなかなか進んでいないという批判もあるのですが、一方で秋山先生が、千葉県柏市の豊四季台団地を中心に取り組まれている活動は、高齢化社会の中でこれからの地域社会づくりを考える上で、大変貴重な示唆を与えていると思われます。
その取り組みは住宅、雇用、福祉、社会参加のあり方などさまざまですが、豊四季台団地での取り組みについ て、ご説明いただけますでしょうか。

豊四季台団地は、日本経済の高度成長期に建てられ、地方から移住された若い人たちが大勢住み、そこから都心に毎日通勤されていました。そういう方たちがいま定年退職を迎えて地域に帰り、「これから何をしよう、高齢期をどう過ごすか」という典型的なベッドタウンです。豊四季台団地はいま高齢化率が35%を超え、2030年の日本の超高齢社会の人口構成とすでに非常に似ていることから、そこをフィールドにし、これからの日本のまちづくり、コミュニティづくりについて、東京大学全学の知を結集して取り組んでいるものです。

その基本になっているのは、日本の20年先を展望して日本がどう変わるのかということです。20年先には日本の全人口の3分の1が高齢者。しかも75歳以上が全人口の2割。5人に1人が75歳以上の社会になります。世界のどの国も経験したことのない超高齢社会に日本は直面しますが、私たちが住んでいるまちは超高齢社会のニーズに対応できるようにはできておりません。大きな課題が3つあると考えられます。そうした課題の解決を目指して複数のプロジェクトを編成して取り組んでいます。

1つは、長生きするだけではなく、いかに健康で長生きするか。健康寿命をどれだけ長くするか。もう少し平たく言えば、自立して生活できる期間の延長です。
2つ目は、いまや人生90年時代と言われています。皆さんピンピンコロリを望まれるのですが、ピンピンコロリの人は、私たちの全国調査の統計を見てもせいぜい1割ぐらいでしょう。したがって、なるべく元気で、でも弱っても安心して快適な生活ができるまちをつくるということです。
3つ目は、メディアでも報道されていますが、全国の調査データを見ても、人のつながりの希薄化が確実に見て取れます。もはや一人ひとりの心構えに訴えるだけでは不十分で、まちの中に人のつながりをつくり、それを維持していく仕掛けをつくっていくことが必要です。
つまり、「自立期間の延長」と、「弱っても安心して快適に、自分らしく生活できる生活環境づくり」を行う。そして、「人のつながりをつくり、それを維持できるような社会の中での仕掛け」をつくることです。

この3つを新しいまちづくりの中に埋め込んでいくことを目標にして、住宅、医療・介護の制度、退職した高齢者の受け皿づくりに取り組んでいます。移動手段の問題。これは柏ではまだ喫緊の問題にはなっていませんが、75歳以上の人が2割を占める社会では移動手段が大きな問題になります。年を取っても今までどおり外に出て、人とつながって活動できるための移動手段。また、これからはICT(情報通信技術)が非常に大きな役割を占めると思われます。健康管理、遠隔医療、人とのコミュニケーションやセキュリティにおいて大きな役割を果たします。活動範囲が狭くなったときに、生活の楽しみや喜びにICTが何を提供できるか。ICTの技術革新とその活用方法の開発にも取り組んでいます。