被災地の地域コミュニティ形成にも寄与

―東日本大震災から2年近くになります。被災地の支援にも取り組んでいらっしゃると伺いましたが、この豊四季台団地の取り組みを被災地の復興に貢献する形でどのように発信できるのか。また、受信する側は、どういう点に注目しながら取り入れていくのがいいのでしょうか。

私たちは、首都圏と地方のごく平均的なまちで長寿社会のまちづくりをしようということで、千葉県の柏市と福井県の福井・坂井市で取り組んできました。そして昨年の3月に震災が起きました。私たちの経験を被災地のまちづくりに役立て携わっていくことを決意し、都市計画が専門の大方教授をリーダーとする学際的なチームを編成して岩手県の釜石市と大槌町に向かいました。 被災地では無論、柏と同じようにはいきません。難しいことがたくさんありますが、柏と福井の経験は役に立っています。仮設住宅でのコミュニティづくりとその後の復興計画に取り組んでいます。被災者の大多数は仮設に移られました。まずはハード面ですが、仮設住宅は簡易長屋が何列もみんな同じ方向を向いて並んでいます。その間は砂利なんですね。被災地は非常に高齢化しています。そうすると、高齢者で足の少し悪い方は外に出られない。車椅子は使えないし、杖をついても歩きにくい。家から外に出ても前の家の裏側が見えるだけです。

仮設住宅は急いでつくる必要がありましたので、根本的な設計の改変は受け入れられない状況でした。そこで、建築学チームの発案で、1列おきに仮設住宅の向きを変えて入り口が向かい合うように配列するという提案をしました。そして、その間は砂利ではなくウッドデッキにして、家から段差なくデッキに出られるようにする。また、被災地の冬は寒いので、デッキに簡単な屋根をつくる。すでに仮設住宅がかなりできているときだったので、多くのところでは受け入れられなかったのですが、釜石と遠野で実行できました。 半年後に行きましたが、従来型の仮設住宅では人が外に出ていませんでした。しかし、住宅が向かい合って、間がウッドデッキで、簡単な屋根が上に架かっているところでは人が出ているんですね。自分の家のテーブルや椅子をデッキに持ち出して、近所の方とお茶を飲みながら話している。ウッドデッキを一生懸命掃いている高齢者がいたり、子どもたちが走り回っている。そこには必ずしも同じ集落ではなく、いろいろな地域からきた人たちが住んでいるのですが、コミュニティができていました。このたび、政府からグッドデザイン賞をいただきました。これは住宅というハード面の取り組みの例ですが、最も注力しているのはコミュニティづくりというソフト面です。

―被災地に限らず、高齢化に直面する各地域が豊四季台団地の貴重な取り組みを参考にしていく上でのヒントがあれば、お聞かせください。

私たちがなぜ柏を選んだかというと、ごく平均的なまちだからです。柏での経験を他の地域のまちづくりに参考になるような形で情報を提供したいと思っています。できたものを「見に来てください」「よくできましたね」というのではなく、人が長年住んでいる地域を変えていくのですから、まちづくりの過程ではいろいろな苦労があります。失敗と成功の積み重ねです。それをできるだけ詳細に記述して、ほかのまちで長寿時代に対応するまちづくりを試みるときに役立つような形で情報を発信していくことを志しています。

同時に、中央官庁に対し、政策の中に組み込んでいただくような方向での働きかけも積極的に行なっています。就労事業では、就労前と6カ月後と1年後で身体機能、認知機能、人のつながりの変化を計測して、定年退職後に地域で働くことの効果に関する科学的なデータを蓄積しています。科学的なエビデンスに基づいた政策や施策の提言をしていきたい。在宅医療事業でも同じような動きがあります。中央官庁でも関心をもっていただいております。

―社会保障を政争の具にすべきではないという議論がありますが、同じように地域づくりも政争の具にすべきではないですし、ぜひそういう先進的な事例を大事にしながら全国的な普及を進めてほしいと思います。今日は長時間どうもありがとうございました。