塩害に負けない農業で心の復興を

―特徴的な取り組みとして津波の塩害地でトマトの栽培を手がけていますね。これを思いついた経過や、取り組みの特徴点についてお話いただけますか。

三陸のリアスは漁業もありますが、東北の基幹的な産業は農業です。私が故郷の風景として思い浮かべるのは、稲穂がたわわに実り、春は早苗というすばらしい田園、やはり農地の風景です。津波の後に行って忘れられない風景が、ちょうど早苗が風にそよぐ時期でしたが、累々たるがれき、茶褐色で、まさに荒廃した水田。皆さん、がっかりしていました。最初にこれを何とかしないといけない。ここから何か一つでも立ち直ることができれば、皆さんの力になるのではないかと思いました。

私は農学部出身なものですから、塩害であるほどうまくいく作物がある。それがトマトだと思いつきました。甘みが増すので塩トマトという言葉もあるぐらいです。そこで、地元のロータリークラブに寄付をいただいて苗を買いました。東京のNPOの方には植えてくれる方を募ってバスで来ていただきました。農家の方は仮設にいらっしゃって疲弊していますし、こんなところで作物はだめだってがっかりしています。農機具もない、家もない。そういう時には外からの力しかないのです。幸い、二軒の農家の方が協力をしてくださいました。しっかりしたトマト農家の方がいらっしゃったので、本当に上手にできたのです。私たち素人では、ちょうど実るころに虫がやってきたり、トマトのヘタのところが黒くなったりしてしまうのですが、その方のおかげで6月に苗を植え、何と8月には収穫できたのです。それでTシャツをつくったりしました。昔は東北のお米を伊達政宗がつくった運河で東京に運び、そこで売っていたのですが、今度はトマトを売ろうと思い、東京でNPO「京橋川再生の会」の方がトマトを売る場所を提供してくださって、これはまだ続いています。震災後ずっと2年以上、定期的にやっています。

おいしいトマトができたので、皆さん、すごく元気になりました。そこで、まず市がトマト農家支援の基金を出してくれました。たかがトマトだったのですが、支援すべき方がどういう方なのか、支援すべき農業とは何なのかというものを行政も模索していましたから、ささやかでも実績があるということで、資金的な援助をいただくことができました。

結果的にそれを活用して、兼業農家だった方が1年後には専業農家になりました。昨日も会ってきましたが、今は百パーセント復興ということで堅実な経営をなさっています。トマトだけではなくメロンも同じようにロータリークラブから支援していただきました。白菜もあります。単一品種ではなく、それぞれの農家の得手不得手があります。立地によって微妙に違いますから、何が何でも同じもので統一する必要は全然ありません。皆さん、高いスキル、技能を持っていらっしゃる。しかも、ほかには負けないという誇りがあります。そういったことで農業はしっかりと立ち上がってきていると思います。

―土地の塩害の関係で、ひまわりを植えると土壌の塩分を吸収してという議論もありましたよね。そのほかにいろいろな試みがあると思いますが、特にトマトに着目されたのは何かあったのでしょうか。

ひまわりも植えました。しかし、ひまわりを植えても、それで被災地が潤うわけではありません。景色がいいとか塩を取り除くということがあったとしても、それで農家の収入が向上することにはならないわけです。ですから、作物を選ぶ時には換金性の高いものと、技術ですね。誰でもできるものでは競争力がないですから、技術を投入することにより、市場で商品が差別化され、高いリターンが可能なものを選ぶことを考えました。

そういう意味ではトマトは、いまデパートの地下に行ったらすごいですよね。フルーツトマトとか、いろいろな名前がついていて、これがトマトかと思うくらいいろいろな品種で、おいしいのがたくさん出ています。トマトのいいところは、トマトそのものでもいいですし、加工が効くところです。実はお米の粉でトマト麺というのをつくっている意欲的な農家もあります。少しピンクっぽいのですが、スパゲッティよりもちょっとこしがある。いろいろ加工する可能性が非常に高い。そういう意味では市場性があるし、6次産業としての可能性があると思いました。

昨日も相談してきたのですが、これでレストランをやろうと、今、カフェのようなものをつくっています。被災地はまだまだ仮設住宅が多いのですが、仮設住宅は被災者の方しか使えませんから、支援の方が行った時に一緒に話をしたり、自由に過ごせるという場所がない。仮設住宅の方にお願いして、予約をしていただき、それでようやく使えるということなので自由度が全然ありません。それで、集まれる場所をつくろうと考えたのです。昨日、上棟式だったのですが、そこでは新しいトマト麺を出したり、いろいろなことをしようと考えています。6次産業などはそういうところから出ていくのかなという気もしています。