課題は医療と介護の連携強化

―社会保障制度改革国民会議の報告書に本来盛り込むべきだけれども盛り込めなかったというような、医療の分野の課題は何かありますか。

医療のほうは集中的に本当に討議したので、かなり皆さん、自分の意見も含めて述べることができました。おおむね私は、医療の方向性はこの内容でいいのだと思います。これを本当にどうやって実現していくのかということが、問われるわけです。でも、介護のほうはちょっと時間が足りなかったこともあって、少し物足りないのです。病院に行かずにずっと自宅で療養している方々もおいでになるわけです。そういう方たちは医療よりもむしろ介護で支えていかなければいけないのです。

医療と介護の連携などを目指し、厚生労働省は、2025年を目処に「地域包括ケア体制」を作ると言っています。地域包括ケアシステムとも言っていますけれども、難しい言葉なので、私は「地域ぐるみの支え合い」と勝手に言い換えています。地域ぐるみの支え合いで高齢者はもちろん障害者も、あるいはできたら子育ての女性たちも含めてネットワークを作って支えていくのだと。しかし、それをどうやって具体的に進めていくのかということは、国民会議ではそこまでの議論はなかなかできなかったのです。

要するに地域包括ケア体制とは中学校区単位、人口が平均1万人ぐらいの規模の地域ごとに支える仕組みを用意していく。全国で中学校区は約1万カ所あるのです。1万カ所はそれぞれ地域事情が違います。大都市部、中都市部、農業地域、漁業地域などまったく違う事情を抱えた1万もの中学校の校区があって、それぞれに見合った支え合いのネットワークをどうやって作っていくのか。こういうものは、政府や行政が号令をかけて動くわけがないのです。地域の人たちが本気になって、これからどういう支え合いの仕組みを作ろうかと自主的に考えてくれて、「私もちょっと手伝ってやろう」という気になってくれなければとてもできない。それをどうやって作るのかということはもっと議論すべきだし、具体的なアプローチをもうちょっと考えたかったのですね。これは今後も厚生労働省のプロたちだけに任せることではなく、いわば全国民を巻き込んだ国民運動みたいなものなのです。

いま先駆的に地域ぐるみの医療と介護の連携を作っているところがいくつかあるのです。それをみんな集めてきてどのようにやっているのかを具体的に示してもらわないと、みんなわからないのです。2025年に地域包括ケア体制なんて言われたって、ゴールが見えなければスタートできないです。ある程度ゴールの姿がイメージできるようにしていかないと、とんでもないことになっていく。それを今からやらなければいけないのです。それをやらないと、医療と介護との本当の改革はできない。車の両輪みたいなもので両輪の機能を明確化していくと同時に、地域の受け入れ先を作るという両輪が動かないと脱線転覆してしまいます。それをちょっと心配しています。

―先生がおっしゃるように、今回報告書の中でも医療の分野がかなり盛りだくさんな課題を示されていますが、介護は本当に記述が少ないです。いま先生が言われました先進的な取り組みをしている地域の事例を簡単にご紹介いただけませんでしょうか。

市町村が主体になるのですが、その市町村に対して誰がパートナーになるかなのです。それは社会福祉法人、医療法人であるとか、あるいは社会福祉協議会であるとか、生活協同組合、農協、労働組合であるとか、まさにパートナーとして地域で私がやるというところがないとできないです。

例えば、京都では、今まではデイサービスセンターみたいなものがバラバラに運営されていたけれど、ある一定の地域のところではみんなで連携して協働事業を始めましょうということをやっています。

私は小さなNPO(福祉フォーラム・ジャパン)をやっています。その会員の一人でもある「小田原福祉会」では地域の相談や交流の場を作ろうと空店舗を改造して、集いの場を設け、その1階に足湯を造ったのです。足湯があるだけでみんな集まってくるんですね。足湯に漬かりながら何か相談事があったら、その同じ場所で相談ができるのだなとわかって、地域包括支援センターの職員たちがいろいろな相談に乗ってあげたり、保健師さんが日々の暮らしの相談を受けたり、そういうのが始まるのです。きっかけが大事です。

例えば長野県の茅野市は温泉がどんどん湧くので、市内に4カ所か5カ所温泉付きの高齢者の集いの家をつくったのです。そうしたら、そこに高齢者が集まってきて診療所と病院の外来の患者さんが減ったと言われています(笑)。そんなに専門家がいなくても、健康のために減塩で低脂肪の糖尿病予防の料理教室をやることで、輪が広がっていく。最初のきっかけは、わりと簡単なことなのです。「あそこに行ったら楽しいよ」「あそこに行ったらちょっと得するよ」という場所を社会福祉法人や医療法人、労働組合などがつくってくれれば、それから始まっていくのです。あんまりものすごい大プロジェクトと思わないで、足元のちょっとしたことから始めていくという取り組みを誰か手を挙げてやってくださる。そういうところがいっぱいあるのです。それがだんだんネットワークを組んで、驚くようなネットワークになっていく。そういうイメージでとらえてもらえればいいと思います。