様々な問題の根底にある医師不足

―昨年(2012年)9月、文部科学省と厚労省が「地域の医師確保対策2012」を公表し、平成31年度まで医学部の入学定員をさらに増やそうとの動きなどもあります。 一方で、中期的には日本も人口減少社会に入っていきますが、需給バランスの点で医師が多くなりすぎるという懸念はないのでしょうか。

医師を増やして、歯科医のように過剰になったらどうする、ということを主張する方がいます。しかし現在、歯科医師は約10万人弱いますが、医師は30万人弱しかいません。歯科でたらい回しにされて亡くなったという話は聞いたことはないですね。救急患者に対応する必要がほとんどない歯科医が10万人、一方、生きるか死ぬかという救急患者を全国で365日24時間担当する医師は歯科医の3倍弱の30万人弱です。

一方医師が将来余るという懸念もわかります。医師の需給を考えながら医師養成数を見直していく必要があるのは当然です。ただし、現在のように高齢医師まで水増ししてカウントし、全国各地で救急医が、脳外科医が何人足りないのか等の正確な実態調査もしないまま、「増やして余ったらどうする」と医師増員に反対するのはおかしな話です。私からすると、戦前戦中と同様の甘い情報分析、遅い基本方針転換が今も日本では続いているのだと情けなく感じます。

すでに日本より人口当り医師が多いアメリカは医師養成数を増やそうとしています。その理由は、将来アメリカは高齢化して医療需要が増大し、医師がもっと必要になるからです。ところがすでに世界一の高齢化でアメリカより医師が少ない日本は、将来医師が余るから増やすなと、お上だけでなく、多くの医療者が考えているのです。

―今の医師の絶対数不足の問題に関連して、むしろ問題は地域的な偏在あるいは診療科による偏在にあるんだという議論もあるかと思います。この辺り、先生はどのようにお考えでしょうか。

確かに地域的な偏在はあります。ただ、絶対数不足の中の偏在という問題認識が必要です。それは絶対数が足りている中での偏在であれば、是正は不可能ではないからです。

日本で人口当たり医師数が一番多いのは東京ですが、東京でさえ勤務医は当直明けでも連続長時間勤務を余儀なくされています。東京で若手の医師がたくさん働けるのも、医師が余っていないからです。それでも地方よりは人口当たり医師数が多いので、教育や労働環境が良いために全国から東京に多くの医師が集まってきます。医師も人間、教育環境や生活環境がいいところで働きたいと思うのは当たり前ではないでしょうか。絶対数不足を是正しないままに、東京等の医師が多い地域から医師不足の地域へ勤務医を強制派遣することは、果たして賢い選択でしょうか。これは専門科の偏在でも同様の構図です。医師の抜本的増員なしに、地域間や専門医の偏在を是正することは不可能だと思います。

―その点に関連して、疾病構造が変化しているとよく言われます。キュア(cure)からケア(care)などということですね。その辺りもかなり影響しているのでしょうか。

医師不足解消の目的もあるようですが、現在総合医育成に力を入れるという話が進められています。私も、総合医の育成と増員は大賛成です。ただし、総合医が増えても救急科専門医とか、麻酔医とか、腫瘍内科医等々の専門医が不在のままではやはり困るでしょう。総合医育成も重要ですが、医師の絶対数不足を是正して、総合医と専門医両者を必要数配置することが重要です。患者さんもケアだけでなく、キュアも求めたいはずです。キュアとケアのバランスをとるためには、医師増員を行いながら、それぞれの役割を担う人材が必要だということです。