「医療市民マイスター」事業の開始

―市民と医師の連携について、阿真さんが内閣府のiSBに申請され、昨年まで代表を務められていた「医療市民マイスター」という事業が始まったと伺っていますが、どのような事業なのかお聞かせください 。

医療市民マイスター事業は、2012年8月から活動を開始しました。その事業を内閣府の地域社会雇用創造事業の一つであるiSB公共未来塾に申請を出したきっかけは、「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」の活動をしていて、医師や看護師と一般の私たち患者では知識の差、教育の差があって、その差がコミュニケーションがなかなかとりにくい原因になっていることに気付きました。私たちがもう少し医療を知ることで、その間に立つことができるのではないか。間に立つ人がいることで、患者さんが何か分からないことが起きたときに、どういうことが分からないのかを気付くことができたり、何が分からないのかを医療者に伝えることができるのではないか。市民側で橋渡しをする役割の人が必要ではないかと思い、申請を出しました。 現在では登録している23名がシフトを組んで、病院の中で患者さんの相談を聞いたり、医療者の話を聞いたりしながらボランティアで活動をしています。

事業の内容は週に2回、朝10時半から2時半まで患者さんの相談を受ける場所を、埼玉の済生会栗橋病院の1階に設けていただいて、そこで患者さんの相談を受けたり、電話の相談があったりといった形でしています。医療的な相談は院内にいる医師や看護師にすぐにおつなぎしますが、ほとんどのご相談はご自身の生活の悩みや、病院にかかる上での心細さといった、直接医療や病状に関係のある相談ではないため、私たちでも十分にご相談に乗れる範囲のことだと思っています。

これまで610件以上相談を受けてきました。今までの相談の中では、医師や看護師への不平や不満もありましたが、それと同じかそれ以上に、感謝の気持ちを伝えてくださる患者さんが多くいらっしゃいます。そのありがとうというメッセージを、医療者へ直接ではなく私たちにお伝えになって「先生に伝えておいて」というようなこともよくあります。

「医療市民マイスター」の登録者は、ご自身が病気を抱えている方、ご家族を看取った方、それから特に病気なども全くしていないが逆に全く医療のことを知らなすぎるので少しは知りたいと参加してくださる方もいらっしゃいます。30代から60代までの男性も女性もいらっしゃいます。

「医療市民マイスター」になるためには、医療の現状や看護、薬、医療メディエーション、在宅医療についてを全8回で受講していただきます。本当に医療についてのはじめの一歩なのですが、医療者がどれだけ忙しいかを知りながら、病院の中がどうなっているかも見学しながら、一般の人が医療のことを少しでも、病院のことを少しでも理解して、橋渡しとなる人が育っていけばいいという思いでやっています。現在の代表は私ではなく、新しく溝田という者が担当しています。

この事業については、いくつかの病院から関心があるという声をいただいていて、患者さんの側からも自分がかかっている病院でこういった事業を広げるにはどうしたらいいかというような声もいただいています。今はまだ活動を始めて間もないので、もう少し栗橋病院に専念して、そこが軌道に乗ってきたらどこの病院でも必要な役割だと思いますので、事業を広げていきたいと思っています。