第1部:基調講演
復興への基軸
~世界の構造転換と日本の進路~
寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所会長
■復興に向けたグランドデザインを
いま、日本を取り巻く物流構造が大きく変わってきています。このことが、東北の復興にすごく大きな意味を持ってきているのです。
日本の太平洋側の港は一気に世界港湾ランキングのランクを落としてきており、上海、シンガポール、香港、深圳、釜山など大中華圏の港町が世界のトップ10を占め始め、気が付いてみれば20位以内に日本の港はなくなってしまいました。
日本を取り巻いている貿易構造がアジアにシフトしている中で、日本の物流は日本海側の港湾にシフトしてきています。首都圏を見ても、いままでは東京湾内の港に運び出していたのが、関越自動車道で新潟に出してから動かしたほうが金も時間もかからないという時代が来ています。ですから日本海側と太平洋側を戦略的につなぐという発想が、東北ブロックの復興にとってもものすごく重要になってきます。福島にとっての復興は新潟との相関によって描かないとアジアダイナミズムを引き受けられなくなるだろうということです。宮城にとっては山形、岩手にとっては秋田です。
県別・市町村別の積み上げ型の復旧・復興計画が一定の成果を上げていることは大いに評価しますし敬意を表したいと思いますが、実は一番重要な国としての復興に向けてのグランドデザインがないのです。東北ブロック全体をどういう産業構造を持った地域によみがえらせるつもりなのか。このことに関する大きな構想力がないということは、これからの大きなポイントになってくるだろうと思います。
■日本の原子力政策
われわれが本当のことに踏み込んで議論しなければいけなくなってきているのは、原子力です。
日本が戦後つくった原発はすべてアメリカの原発であり、アメリカの原子燃料を買ってきたという関係ですから、日本はアメリカの原子力政策の流れの中に組み入れられてきたと思いがちです。
ところが、日本の産業はアメリカの原子力産業と戦略的提携を超えて、日本のインダストリーの中核を担っているような企業が、世界の原子力産業の中心に立っている。しかも日米原子力協定に基づいて日米原子力共同体をつくっている。
もし本気で脱原発を考えるなら、アメリカと本気で向き合って、いま組み立ててきている日米原子力共同体というものをどうしていくのかについて方向付けするべきです。極端に言うならば、日米安保体制を根底から見直してアメリカの核の傘の外に出るという決断をし、日米原子力協定・日米原子力共同体を解消してでもやるのだというだけの決意を持って踏み込むならば、脱原発はできないことはない。しかし根底に甘さが横たわっています。アメリカの核の傘に守られたいという誘惑の中で、脱原発は可能だという幻想を持っているわけです。
また、原発を廃炉にしていくにしても、原子力の技術基盤をしっかり持ちこたえないと、廃炉にさえ真剣に向き合えないということです。
核を廃絶し平和利用に対する安全性を担保するためにも、日本が蓄積した原子力の技術を維持し、誇り高く若い優秀な技術者がそれに立ち向かってくれるような基盤をつくらなければなりません。これだけ福島が苦労しているのだから、世界の原子力の安全性や原子炉の廃炉に関する技術基盤の世界的な研究機関、世界的な技術者の集積点を福島につくって、それを世界に対する貢献や発展の一つの基盤にしていくべきではないかとさえ思います。
日本はいままで原子力に100兆円をかけてきています。それを金の問題ではないということで廃棄していくためにも、さらにそれに匹敵するぐらいのコストと人的投資をして廃炉にしていかなければいけないプロセスがあるのだとするなら、原子力に対する技術基盤、特に安全性に関する技術基盤だけは責任を持って踏み固めて、国際社会に対しての発言力を握る。そのことを梃子にして、まさに核なき世界に対する発言力を高めていくというのが、日本の原子力に対する政策の基盤になるのではないかと私は思います。