「暮らしの保健室」での相談状況と利用者の変化
―「暮らしの保健室」には具体的にどのような相談が寄せられ、それをどのように解消しているのでしょうか。
利用されている方はご近所の方が多いのですが、ここはがんの療養相談として新宿区の広報などにも載っていますので、電話の相談も入ります。電話相談される方の中には時間もなく病院でお医者さんに聞いていいのかどうかと思っているうちに時間が過ぎてしまったという方がいます。
例えばお薬が変わって食欲がなく、食事の内容をどうしようか、そこまで病院に聞いていいのかどうか迷っているうちに時間が過ぎてしまったと。それで、ご家族が食欲がなくなっているご主人にどんなお食事をつくったらいいのか、というようなちょっとした相談があります。
他にも‘かかりつけ医は病院のお医者さん’という方がけっこういます。特にこの周辺は大きな病院が多いので、あそこの病院で、整形外科にかかって、眼科にかかって、内科にかかってと何回もかかっている。それぞれから薬をお薬手帳にも張りきれないほど山のようにもらっているけど、どうもこの薬は重なっているのではないかと思っているが、病院で聞けない。それをここで見せてもらって、少し整理をします。ここは医療機関ではないので、その薬をやめなさいということではなくて、今度、病院に行ったときに「‘これを飲んでいるんですけど、これとこれは同じ胃薬なので少なくしてもらえませんか’という具体的な提案を自分からしていったらどうでしょうか」とアドバイスします。
また、戸山ハイツは高層の住宅なので、震災後、上のほうに1人で住んでいると、めまいなのか余震なのかがわからなくなってくる方がいます。そうすると、強迫観念みたいにだんだん心配になって、あちこち駆け込んだり、いろいろと相談に行くのだけど、結局のところ特に大きな原因や解決策はなくて返されます。そのうちに、だんだんその不安が高じて、食べたり飲んだりできずに脱水を起こし、便秘になり、お腹が痛くなり、救急車で病院へ行ってしまう。病院へ行っても特に何でもない、不安も解消しないということがあります。そういった方がここに来られて、「今日は朝から何を食べたのかしら」とゆっくり話を聞き始め、「肌も渇いているし、ちょっとお茶でも飲みましょうよ」「何か召し上がったらどうですか」と、いろいろゆっくり話していくうちにだんだん落ち着いてきて、そういうことで不安が解消されていく一人暮らしの方もいらっしゃいます。
他にも、育児休業中なのだけれども保育園が決まらず、家にいるとだんだんイライラしてくるという現役看護師さんが、毎週赤ちゃん連れで来られたり、本当に多彩な人たちが訪れます。
「暮らしの保健室」を利用した方に日赤の看護大学の方たちがインタビューをしてくださったところ、実際に飲む薬の種類が8.8%減少したという結果がでました。それから、通院する病院や診療所の数が14.7%減少して、相談できる医療従事者ができたというのが増えました。外出の回数が増加し、友人付き合いが増加し、生活の張り合いが生まれ、暮らしの中の自分なりの役割が少しずつ増えてきた。そして、暮らしの中の孤独感が減って薬が減った。そういうことが利用した人の直接の声です。これは日本地域看護学会で日赤の方々の研究として発表されています。
「平成24年度在宅医療連携拠点事業成果報告
(株)ケアーズ白十字訪問看護ステーション、暮らしの保健室」より