自壊社会からの脱却  ― もう一つの日本への構想 ―

「自壊社会からの脱却 ― もう一つの日本への構想 ―」

  • 著者:神野 直彦・宮本 太郎 編
  • サイズ:四六判・並製・カバー 254頁
  • 定価:本体 1,600円 + 税
  • 刊行:2011年2月
  • 岩波書店刊:http://www.iwanami.co.jp/


本書紹介


 現在我が国では、経済、雇用、社会保障等、これまで安定的に運用されてきた社会システムが社会状況の変化に対応しきれなくなり、いわば制度疲労を起こしています。また、リーマン・ショックや欧州金融危機等世界的な経済危機が近年相次ぎ、我が国をはじめ各国経済に大きな影響を及ぼし、勤労者、特に若い非正規労働者をめぐる雇用情勢が悪化しています。貧困や格差拡大は進み、先行きの見えない不安と閉塞感が社会全体を覆っています。今ほど、あたかも自壊したかのような社会からの脱却が強く希求されている時はないと思われます。
 本書は、2008年11月から2011年3月にかけて当協会が実施した「希望のもてる社会づくり研究会」(主査:神野直彦・東京大学名誉教授)の研究成果と提言をまとめたものです。同研究会には各分野の最前線で活躍する研究者の方々にご参加いただき、国際金融情勢、経済と財政、社会保障、雇用、教育、環境問題等の幅広い観点から、「希望のもてる社会」の創造には何が必要なのかが検討されました。
 本書では、希望のもてる持続可能性のある社会への展望を切り開いていくには、福祉・経済・自然環境の連携が欠かせないという視点が貫かれています。世代の再生産にかかわる領域(社会保障、教育)、社会経済の再生産にかかわる領域(雇用、経済)、自然環境の再生産にかかわる領域、という三つの領域の相互の関係に注目し、自壊状態に陥った日本社会の問題の本質はどこにあるのか、これからの課題解決の方向性は何か等について、各章で平易に語られています。
 本書の刊行直後に東日本大震災が発生しました。震災は甚大な被害をもたらしましたが、以前から日本社会が抱えていた社会システムの制度疲労や貧困・格差拡大等の課題は震災を機にむしろ表面化した感があり深刻です。各章での議論は、日本社会全体の復興や展望を考える上で大きなヒントになるでしょう。
 「おわりに」で神野名誉教授は、現在が「危機の時代」であるとして、「『危機の時代』とは古き時代が崩れ落ち、未だ新しき時代が姿を現そうとしない『踊り場』の時代である。そうだとすれば、『危機の時代』とは未知へ敢えて挑戦しようとする人間にとって、理想を求める構想力が掻き立てられる時代でもあるはずである」と述べられています。
 全国の書店で販売されていますので、ぜひご一読ください。


本書の構成


  • はじめに ―「自壊社会」の構造と希望のヴィジョン (宮本太郎)
  • 第1章 新しい世界秩序・国際協調体制 (水野和夫)
  • 第2章 環境保全型発展の経済性 (植田和弘)
  • 第3章 社会保障システムの再構築 (駒村康平)
  • 第4章 「ジョブ型正社員」という可能性 (濱口桂一郎)
  • 第5章 ユニバーサル・デザイン社会の提案 (阿部 彩)
  • 第6章 学校の役割を再考する (広田照幸)
  • 第7章 反「小さな政府」論のその先へ (高端正幸)
  • おわりに ―「自壊社会」を越えて (神野直彦)