年金を選択する
- 著者:駒村 康平 編著
- サイズ:A5判 262頁
- 定価:本体 3,000円 + 税
- 刊行:2009年5月
- 慶應義塾大学出版会刊:http://www.keio-up.co.jp/np/index.do
本書紹介
我が国は本格的な高齢化時代を迎え、社会保障制度、とりわけ公的年金制度は、国民の信頼に足る制度であることが強く求められています。
しかし、若年層を中心に、公的年金制度の負担への不満や将来年金が受けられるのかという不信感が横たわっています。また、2007年に発覚した年金記録問題(いわゆる「消えた年金記録」)等は公的年金制度への不信や不満を一層高めることになりました。
国民が信頼して託すことができる社会保障制度について、歴代政権下では有識者会議が繰り返し設置されてきました。「社会保障国民会議」(2007年1月~2008年12月)の「最終報告」では、国民は給付・負担の両面での当事者として公的年金をめぐる議論に関心をもって参加する場面がなかなかなかったが、社会保障は国民自身のものであるため、国民は機会をとらえて議論に参加することが望ましい、と述べられています。
本書は、2007年11月から2008年9月にかけて当協会が開催した「参加インセンティブから考える公的年金制度のあり方研究会」(主査:駒村康平・慶應義塾大学教授)での議論を研究成果としてまとめたものです。公的年金制度の現状を客観的に分析し、国民の年金制度に対する不公平感を解消し、信頼感を高めるためには、国民の制度改革議論への参加インセンティブ(意欲)を促し、合意形成を図ることが何よりも大切であると主張し、新たな公的年金制度を提案しています。
まず第Ⅰ部総論の第1章では、①年金財政の長期持続可能性、②ライフスタイルや働き方の変化に対する対応力、③適切な給付水準の確保、の3点を年金制度の評価基準として、現行公的年金制度を評価しています。そして、年金制度改革の課題は所得保障政策全体から見て、「制度のデザイン」「年金財政の安定性の確保」「年金制度に関するわかりやすさと制度改正に関する国民の参加の保障」の3つの視点から検討する必要性を説いています。
以下、第2章では就業形態の多様化や高齢者雇用の増加による労働市場の変化と年金制度、第3章では年金制度における世代間のリスク分担機能の重要性、第4章では年金制度に関する情報共有化と国民の参加、第5章では私的年金の役割、第6章では参加インセンティブを高めるための施策について、それぞれ議論が展開されています。そして第7章では年金制度の改革モデルとして、①所得比例年金と最低保障年金を組み合わせた新たな厚生年金モデルと②75歳以上の高齢者に対する最低保障年金を導入するモデルの2つの試案が示されています。
また、第Ⅱ部各論では、第Ⅰ部総論の各章について詳述されています。
政権交代をはさんで、「社会保障制度改革国民会議」(2012年11月~2013年8月)では社会保障について議論されましたが、年金財政の安定性や世代間の不公平感を解決し、信頼性の高い公的年金の将来像は示されたのでしょうか。
本書は、我々が当事者意識をもって今後の公的年金制度改革の方向性を見通すうえで、多くの示唆に富むものと思います。全国の書店で販売されていますので、ぜひご一読ください。
本書の構成
- はじめに
- 第Ⅰ部 総論
- 第1章 年金制度の評価軸と所得保障政策全体から見た現行年金制度の課題
- 第2章 労働市場と年金制度
- 第3章 公的年金が目指す世代関係論
- ― リスクを考慮しない静的世代会計論の限界と年金制度における世代間のリスク分担機能
- の重要性
- 第4章 年金制度に関する情報と国民の参加
- 第5章 私的年金の新しい役割
- 第6章 参加インセンティブを高めるために
- 第7章 年金制度改革モデル
- 第Ⅱ部 各論
- 第1章 高齢者雇用と年金の接続のための政策課題
- 第2章 年金制度における世代間のリスク分担と世代間の「公正」
- 第3章 年金情報通知による参加インセンティブの向上策
- 第4章 公的年金制度と当事者の参加
- 第5章 私的年金の方向性と課題 ― 企業年金を中心に
- 第6章 個人年金市場の動向と今後の方向性
- 第7章 将来における高齢者の等価所得分布からみた年金制度改革のあり方
- ― 75歳以上高齢者への最低保障年金の導入について