【書籍】投資は『きれいごと』で成功する 『あたたかい金融』で日本一をとった鎌倉投信の非常識な投資のルール

「投資は『きれいごと』で成功する 
『あたたかい金融』で日本一をとった鎌倉投信の非常識な投資のルール」

  • 著者:新井和宏
  • 定価:1,500円+税
  • ISBN:9784478064856
  • 頁:224頁
  • 発刊:2015年4月
  • 発行所:ダイヤモンド社


本書紹介


2015年5月11日放送のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で、鎌倉投信株式会社のファンドマネージャー、新井和宏氏の仕事ぶりが紹介されていたのをご覧になった方も多いのではないでしょうか。本書はその新井氏が執筆した著書です。
書籍タイトルを見た方の中には、偽善的だと感じたり、歯が浮くような感覚にとらわれる方が、もしかすればいらっしゃるかもしれません。しかし、NHKのドキュメンタリー番組で新井氏の日々の業務の様子を見、あるいはこの書籍を読み終えた方は、その感覚こそ、現実の歪んだ社会や経済に我々の意識が制約されていることを、むしろ示すものだと気づくのではないでしょうか。なぜなら、新井氏のような考えや行動は、かつての企業家精神の中に確かに存在していたものだからです。例えば、住友財閥は「堅実を旨とし、浮利を追わず」を家訓として長らく大切にしています。ちなみに新井氏が大学卒業後に就職したのは住友信託銀行でした。著書ではこの関連について何も触れていませんが、象徴的ではあります。
さて、本書では、法政大学の坂本光司教授の執筆した『日本でいちばん大切にしたい会社』との出会いから物語が始まります。当時、新井氏は外資系金融機関に転職し、資産運用の仕事に没頭していてストレスが原因で病に倒れたため退職を決意、世間ではリーマンショックが発生し、金融の世界の価値観を根底から覆そうとしていた時期でした。新井氏はこの本に出会ったことから、鎌倉投信の立ち上げに向かいます。
鎌倉投信は「結い2101」という投資信託のみを販売していますが、集めた資金は「儲かる会社」ではなく、「いい会社」に投資されています。言い換えれば、社会性と経済性を同時に事業の中で追求する会社に投資されています。もちろん、単に当該企業の社会的価値の高さだけを理由に投資するのではなく、持続可能な経営が可能かどうかを見極めていることは言うまでもありません。
運用に際しては、1社あたりの投資額の比率を鎌倉投信の純資産総額の1.7%に抑えてリスク分散を図ったり、預かり資産の3割を現金で保有することにより流動性リスクに備えたりしています。こうして全体のリスク量を10%以内に抑え、「リスク10%、リターン5%」をめざし、実現しています。
また、直販、つまり投資信託の販売に金融機関を代理店として挟まず、鎌倉投信が直接投資家から資金を集める販売方法をとっています。
これらは鎌倉投信の企業目的を実現するための不可欠の手段として、著書の中で詳しく説明されます。
鎌倉投信は、CSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)ではなく、CSV(Creating Shared Value 共通価値の創造)をめざすと言います。つまり、「企業が事業活動を通して経済性(利益の創出)と社会性(社会問題の解決)を両立すること」を、投資を通じてサポートすると宣言します。
CSRに代わる概念として、2011年にハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱し始めたCSVという概念が、具体化されている姿を我々はここに見出すことができます。
鎌倉投信は投資家と投資先企業の出会いの場をつくり、投資というお金を通じた両者のつながりを、投資先企業の価値の創造、つまり社会的課題を解決する企業活動に対する投資家の信頼へと昇華させる試みを、投資家が参加する受益者総会などの場を通じて意識的に行っています。
こうして生み出される好循環が今着実に広がりを見せています。
「貯蓄から投資へ」との多少危ういスローガンをしばしば耳にします。また、エシカル・コンシューマー(ethical consumer)という言葉があります。「倫理的な消費者」というような意味で、消費を通じて社会を良くするとの含意です。
それらの言葉を思い起こしながら、読後、エシカル・インベスター(ethical investor)もめざそうと考えたのは、私だけではないかもしれません。


(H.N.)



本書の構成


  • 第1章 きれいごとで成功した非常識すぎる8つの投資法則
  • 第2章 「投資は科学」から「投資はまごころ」へ
        ――「リターン」を再定義する
  • 第3章 経営効率の悪い小型株でリスクはチャンスに変わる
        ――「リスク」を再定義する
  • 第4章 「安く買って高く売る」に必要なのは金融工学ではなく信頼
        ――「投資」を再定義する
  • 第5章 格付けよりも大切な「8つの会社の見方」
        ――「経済指標」を再定義する
  • 第6章 企業価値は過去の成功ではなく「ずるい仕組み」を持っているかどうかで判断する
        ――「ビジネス」を再定義する
  • 第7章 金融機関の役割はお金に眠る「つなぐ力」で社会を動かすこと
        ――「金融」を再定義する