【書籍】成長から成熟へ―さよなら経済大国

「成長から成熟へ―さよなら経済大国」

  • 著者:天野 祐吉
  • 定価:740円+税
  • ISBN:9784087207132
  • 判型:新書
  • 頁:217頁
  • 発刊:2013年11月
  • 発行所:集英社新書
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本書紹介


私たち日本人にとって「幸福」とはなんだろう?
ブータン国王が来日したときに、「国民総幸福度」(GNH)という言葉が話題になった。これまで一国の国力は国内総生産(GDP)という経済指標で語られてきている。日本のGDPはアメリカ、中国に次ぐ世界第3位であるが、OECDの幸福度指標では36ヶ国中21位だという。
日本はこの60年間大量生産、大量消費で一人当たりのGDPを確実に伸ばしてきた。しかし、私たちの「幸福度」はどうだろう。内閣府の調査によれば、1984年から幸福度が年々下がってきているのがわかる。ではなぜ、日本は「豊かであるが幸福ではない国」に、こんな歪んだ社会になってしまったのだろう。
先ごろ亡くなった天野祐吉氏の最新刊著書『成長から成熟へ-さよなら経済大国』にこれからの私たちが幸せになるためのヒントが記されている。
この本のプロローグの一部を紹介しよう。「朝起きて、部屋のカーテンを開けたらびっくりした。前の道路の電柱がぐにゃっと曲がっている。向かいの五階建てのマンションも、絞ったタオルみたいにねじれている。それだけじゃない。すべての風景が大きく歪んでいるのだ。-というふうに、歪みがはっきり目に見えればいいのですが、電柱も向かいのマンションもまわりの風景も、実は何一つ変わっていない。すべてきのうと同じです。でも、それはぼくの目が馴らされているだけのことで、どう考えても実際は歪んでいると思えることが、いまの世の中いっぱいあるんじゃないか。と言うより、世の中のほとんどすべてが歪んでいるように、ぼくには見えるのです。」
広告という窓から世の中をのぞいてきた天野氏が、本書の中で広告を通じてこの歪みの正体を解き明かしている。
1960年代のはじめにわれわれが乗った「経済大国行き夢の超特急」は、73年までの高度経済成長期、90年までの安定成長期、そして91年以降の低成長期時代へと次第にスピードを落としていった。戦後の「貧乏暇なし国」にいた日本人が「金持ち暇あり国」を夢見て、モーレツに頑張ってきた。
「生活を豊かに楽しくする家庭電化!」という広告が新しい暮らしを提案。(1953年1月)電気洗濯機、電気冷蔵庫、テレビが「三種の神器」と流行語になるのがその2年後だという。広告が戦後の日本人の「豊かな生活の設計図見本」となっていた。1960年代に入ると、広告は「豊かな生活」のイメージ作りをはじめる。個々の商品が多くの広告としてつながりあって、一つのライフスタイルをイメージさせていく。さらに、70年代に入ると広告は「もの」から個人の「美しさ」や「かっこよさ」など「欲望の計画的廃品化」と「センスの差異化」に取り組みだす。
私たちは日々、広告という情報により、時代ごとのライフスタイルを自ら選択している錯覚に陥っていたのではないだろうか。ものが豊かになることで、「幸せの正体」が次第に見えにくくなっていったのではないだろうか。
耐久性がありすぎては大量にものが売れない。売れなければ消費は増えない。消費を増やすためには、商品が一定期間で消耗するよう開発されなくてはならない。「計画的廃品化」による大量消費の時代を経済成長という名のもと経験してきたが、今こそ立ち止まって考えるときではないだろうか。
「大量生産と大量消費の歯車を回し続けるためには、何がなんでも消費者のほしいものを次々に作り出さなくてはなりません。それがもう、どうにもならないところまできてしまったということですね」と天野氏は言う。ついに 「経済大国行き夢の超特急」も金属疲労を起こして止まった状態である。
再びの経済成長に向けたアベノミクス政策であるが、天野氏によれば、これからの日本が目指すべき行き先は「経済大国」ではなく、「生活大国」だという。そして、歩むべきは「成長社会」から「成熟社会」への道であるという。この「成熟社会」については、シンポジウム『グローバル時代に日本が生き残る道』での浜矩子氏の基調講演がとてもわかりやすかったと本書に紹介されている。そして、こう結んでいる。
「といっても、経済大国から浜さんの言うような『老楽(おいらく)国家』に引っ越すのは、それなりに時間がかかる。(・・・・)が、行き先は、そこしかない。そう思って、いまから引越しの準備だけはしておきたいもんです。」「引っ越し先は、言うまでもありません。経済力や軍事力で競い合うような国じゃない。文化力を大切にする『別品』の国です。」
天野氏がいう、『別品』の国への引っ越し準備をあなたも一緒にはじめてみませんか。


(M.T.)



本書の構成


  • プロローグ 世界は歪んでいる
  • 第1章 計画的廃品化のうらおもて
  • 第2章 差異化のいきつく果てに
  • 第3章 生活大国ってどこですか
  • エピローグ 新しい時代への旅