【書籍】風になる ~自閉症の僕が生きていく風景

「風になる ~自閉症の僕が生きていく風景」



本書紹介


「彼はどんな人なのだろうか?」
初めて雑誌のコラムを読んだとき、みずみずしい感性に触れて、彼に興味がわいた。
本書には、街角でホームレスが販売している雑誌『ビッグイシュー日本版』に連載されたコラム「自閉症の僕が生きていく風景」60回分と演出家の宮本亜門さんとの対談が収録されている。
ストレートな言葉。今まで気付かなかった世界の見方、忘れていた感覚を思いださせてくれる、不思議な心地よさを覚える言葉たち。
本の構成は、Ⅰ.僕のこと。Ⅱ.僕と自閉症。Ⅲ.僕と表現。Ⅳ.生きる理由。巻末に対談:宮本亜門×東田直樹 「人は誰かに必要とされて幸せになる」が収録されている。
シンプルな、詩のような言葉は、人間が自然の一部であることを思い出させてくれるだろう。
Ⅳ.生きる理由 ~受け取った幸せをみんなに返したい~ から、テーマをいくつか紹介しよう。
「人はなぜ、生きるのか? 存在理由を知りたい」
「人が人であるために大切なのは、コミュニケーションだと思う」
「ありのままの自分を生き抜きたい」
「働く。あなたは必要な人だと認めてもらうこと」
多くの現代人は、仕事が生活の大部分を占め、効率やスケジュールを重視した左脳優位な日々を過ごしている。右脳が持つ感覚や感性の部分を感じ、幼いころの遠い記憶を思い出させてくれるヒントが本書にはある。
そして、日常生活の中で起こる、戸惑いや、躓きについて、「おびえているのは、期待に応えたい気持ちの表れ」、「自分自身へのやさしさは、自分を肯定する力の源」など、ちょっと元気がない時にも、温かい言葉に、元気がもらえる。
彼の講演会に参加した時、自閉症者にとってつらいことの一つに「人は、自分が簡単にできることは、他の人もできてあたりまえだと思いがち」という言葉があった。これは、誰にも当てはまることであり、普段忘れがちな部分だろう。だれでも自分を基準に考えてしまう。その時代の多数を占める人が「正常」というものさしがあるが、いろいろな個性を受け入れることができる社会、いろいろな能力が発揮できる社会。そんな社会は誰にとっても生きやすい社会だろうと思う。
「僕もコミュニケーションの手段がなかった頃は、暗い洞窟に住んでいるように感じていました。・・・誰もが悩みを抱え、苦労しているのは知っています。けれども話を聞いてもらったり、笑い合ったりする中で人は気持ちを癒し、前向きに生きていけるのではないでしょうか。それができないことのつらさを知ってほしいのです。」と、彼は自分の体験を理路整然と綴っている。
本書を読んでいると、彼が日常的な会話がほとんどできないという事実を忘れてしまう。
自分ができることで、前向きに発信を続けていく姿に、勇気をもらった。


(A.T.)



本書の構成


  • Ⅰ.風になり、花や木の声を聞く ―― 僕のこと
  •   言いたかった最初の言葉は?/名札で記憶、クラスメイトはいつも初対面
  • Ⅱ.記憶は点、僕に明日はない ―― 僕と自閉症
  •   記憶は薄れないで積み重なる/ラジオ体操で手足を自覚した
  • Ⅲ.色そのものになって塗る ―― 僕と表現
  •   脳を納得させる方法/文章を読み、絵も描く
  • Ⅳ.受け取った幸せをみんなに返したい ―― 生きる理由
  •   ありのままの自分を生き抜きたい/昔のどんな自分も肯定したい/なぜ生きるのか?
  • 対談 宮本亜門×東田直樹
  •    人は誰かに必要とされて幸せになる