【映画】僕たちは世界を変えることができない。 But, we wanna build a school in Cambodia.

「僕たちは世界を変えることができない。」

  • 原作:葉田甲太「僕たちは世界を変えることができない。But, we wanna build a school in Cambodia」
  • 製作年:2011年
  • 配給:東映
  • 上映時間:126分
  • 脚本:山岡 真介
  • 監督:深作 健太
  • 出演:向井 理
  • 松坂 桃李
  • 柄本 佑
  • 窪田 正孝


映画紹介


ごく普通の大学生から一変!
原作者・葉田甲太の体験記を映画化した青春ムービー


2008年に自費出版された、当時現役大学生であった葉田甲太の体験記「僕たちは世界を変えることができない But, we wanna build a school in Cambodia」を原作とした映画で、2011年に公開された作品である。
本作が映画初主演となる向井理が主人公を演じ話題となった。
2005年、主人公の田中甲太は平凡な医大生だった。普通に大学に通い、普通に合コンをして普通に単位をとって普通に卒業する。そんな毎日に何か物足りなさを感じていた。ある日甲太は郵便局でたまたま見つけたチラシを見て「カンボジアに小学校を建てよう!」と思いつき、友人たちと4人で活動を始める。初めは勢いだけでうまくいっていたが、計画性のない活動は次第にほころびを見せ始める・・・
ごく普通の大学生が、これまで知らなかった世界に悩み、苦しみ、傷つけあいながらも、絆を深め、成長していく姿を描いた青春ストーリーである。
しかし、この映画を「青春ストーリー」と一言でまとめてしまうと、違和感を覚える。なぜなら、この映画は、主人公たちが感じた問題意識や葛藤がそのまま画面を通して伝わってくるので、彼らが悲しみ悩み苦しんだ分だけ、映画を観ている私たちも同じような感情に包まれるのだ。さわやかな青春ストーリーを観ているときとはまったく異なる感情だ。


ポル・ポト政権下においてカンボジアで何が起こっていたのか、カンボジアのHIV患者がどのような生活をしているのか、皆さんはご存知だろうか。
1975年~1979年のポル・ポト政権下のカンボジアでは、20世紀最大の虐殺が行われ、たった4年の間に約300万人が亡くなった。知識人やその家族を中心とした大虐殺の結果、残った国民の85%が14歳以下の子どもであったという。劇中、主人公たち4人は、ガイドと共にこの大虐殺の爪痕が残るトゥール・スレン博物館(当時の収容所)やキリング・フィールド(当時の処刑場)を訪れる。ガイドの説明は想像を絶する内容でとても恐ろしく、目をそむけたくなるような現実がそこにあった。虐殺が行われたその場所に立ち、足元に埋まった人骨の上を歩く彼らは、笑顔が消え、言葉を失い、涙を流した。軽く始めたつもりの活動であったが、カンボジアの現実が重くのしかかっていた。


また、彼らはカンボジアの病院視察に向かい、そこで「エイズ病棟」に出会う。病棟の患者全員がHIVの感染者であるという、日本では考えられないような状況である。「患者に何を聞きたいですか」と聞かれ、言葉に詰まってしまう。ごく普通の大学生がHIV患者を目の前にして、一体何を聞くことができるだろうか。もし自分がその場に立ったならば、何か聞けるのだろうか。

トゥール・スレン博物館やキリング・フィールド、エイズ病棟などの撮影は、ドキュメンタリーに近い方法で行われたという。4人はガイドに案内されながらテストなしでそれぞれの場所に足を踏み入れ、カメラは彼らの生のリアクションを追い続けたそうだ。この演技ではない生のリアクションが観る者の心を打つのだ。恐ろしくて腰が引けてしまうような瞬間、質問を受けたのに何もいえなくなってしまう瞬間、どこを見ていいのかわからず戸惑ってしまう瞬間、それが映画の中からリアルに伝わってくる。まるで自分もその場所にいるかのような緊張感なのだ。だからこそ、彼らが感じたものすべてが、画面を通して私たちにも突き刺さってくる。日本で普通に暮らしているうちは決して感じることのできない感情である。


主人公たちは、カンボジアの現状を目の当たりにして、また活動を続ける困難に直面して、「カンボジアに小学校を一つ建てたくらいで何が変わるんだ。結局、根本にある問題は何も変わらない。それならばこの活動には意味がないのではないか。」という問題を抱える。甲太もその答えがわからず、苦しむ。
「僕たちは世界を変えることができない。」という映画の題名どおり、甲太たちがどんなに苦労してカンボジアに小学校を一つ建てたとしても、それだけではカンボジアの抱える問題は何も解決しないのだ。そんな行動だけでは、カンボジアの平和、世界の平和など訪れないのだ。
それでも、この映画を最後まで観て、そして感じてほしい。彼らが映画の中で感じているもの。「僕たちは世界を変えることができない。でも・・・」この「でも・・・・」の後に続く言葉を、きっと見つけることができるであろう。続く言葉は一人ひとり違うかもしれないが、その言葉を見つけ、何かを感じること。それがこの映画が私たちに送るメッセージではないだろうか。
ぜひ、あなたの言葉を見つけてほしい。


(A.K.)