(1)遺族年金とはどのような制度ですか?
遺族年金は国民年金や厚生年金保険の被保険者、あるいは被保険者であった人などが亡くなったときに、その人によって生計を維持されていた遺族に対して支給されます。
遺族年金には「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2つがありますが、どの制度から遺族年金が支給されるかは、亡くなった人が加入していた公的年金制度と遺族(配偶者、子、その他の遺族など)によって、支給される遺族年金の種類が決まる仕組みです。
国民年金から支給されるのは「遺族基礎年金」、厚生年金保険から支給されるのは「遺族厚生年金」です。
なお、遺族基礎年金には子の要件を満たす「子」の人数に応じて、「子の加算額」が上乗せされます。 また、遺族厚生年金には年齢など一定の要件を満たす妻がいる場合には、「中高齢の寡婦加算額」が上乗せされます。
遺族給付について(国民年金と厚生年金保険の被保険者期間があるケース)
- (注)「子のある配偶者」については平成26年4月の改正です。平成26年3月までは「子のある妻」に限られていました。なお、「子のある夫(父子家庭)」は平成26年4月以降に子のある夫になり、支給要件を満たしている場合に適用されます。
-
(注)公的年金制度における「子」とは、①未婚で18歳到達年度の末日を経過していない子、
または、②未婚で20歳未満で障害年金の1級または2級の子で、現に婚姻をしていない場合をいいます。
なお、その他の親族に含まれる「孫」についても「子」と同様です。 - (注)亡くなった人が国民年金のみに加入していた場合に支給される遺族年金は遺族基礎年金のみです。
- (注)上記以外に第1号被保険者独自の給付として、「寡婦年金」、「死亡一時金」があります(後述)。
- (注)共済年金については、平成27年10月1日から厚生年金保険に統合(一元化)されました。
(2)遺族基礎年金はどのようなときに支給されますか?
遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金は、次の①と②の要件を満たし、亡くなった人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に対して支給されます。
①加入要件
亡くなった人が次の(ア)~(エ)のいずれかに該当すること。
- (ア)国民年金の被保険者が亡くなったとき
- (イ)国民年金の被保険者であった人で日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の人が亡くなったとき
- (ウ)平成29年7月までに老齢基礎年金の受給権者であった人が亡くなったとき
- (エ)保険料納付済期間、保険料免除期間、および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある人が亡くなったとき
ただし、(ア)と(イ)の場合は次の保険料納付要件が問われます。
②保険料納付要件
死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間(学生納付特例期間、保険料納付猶予期間を含む)を合わせて3分の2以上であること。
なお、この保険料納付要件には特例があり、「令和8年4月1日前に死亡日がある場合は、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料未納期間がなければ、保険料納付要件を満たしている」とみなされます(ただし、死亡日に65歳未満であること)。
保険料納付要件について
【例1】原則:20歳から死亡日の前々月までに保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること
【例2】特例:死亡日が令和8年4月1日前の場合は死亡日の前々月までの1年間に保険料未納期間がないこと
遺族基礎年金が支給される遺族の範囲
遺族基礎年金が支給される遺族の範囲は、亡くなった人によって、生計を維持されていた人で、次に掲げる人です。
①子のある配偶者(事実上の婚姻関係にある者を含む)
②子
(注)「生計を維持されていた」とは将来にわたって、年収850万円(所得ベースでは655万5,000円)以上の収入を得られない状態をいいます。
(注)亡くなった人の亡くなった当時、胎児であった子が出生した場合には、出生時から、その子は遺族であるとみなされます。したがって、その子の母は遺族である妻とみなされて、遺族基礎年金の受給権を取得します。
(注)子のない妻、子のない夫、父母、孫、祖父母については、遺族基礎年金の支給はありませんが、遺族厚生年金が支給されることがあります(後述)。
(3)遺族基礎年金の額はいくらですか?
①遺族基礎年金の額(令和5年度価額)
遺族基礎年金の年金額は被保険者期間の長さにかかわらず、定額です。
遺族基礎年金の額は満額の老齢基礎年金と同額で、昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、795,000(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、792,600円)円(基本額)です。
さらに、一定の条件を満たす生計を同じくする子がいる場合、子の人数に応じて「子の加算額」が上乗せ支給されます。
子の加算額は1人目と2人目が各228,700円、3人目以降は1人につき76,200円です。
なお、加算対象となる子には要件があり、下記(ア)または(イ)を満たす必要があります。
- (ア)18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子で、現に婚姻をしていないこと
- (イ)20歳未満で障害等級1級または2級の子で、現に婚姻をしていないこと
遺族基礎年金の額
昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、
795,000(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、792,600円)円+子の加算額
子のある配偶者に支給される遺族基礎年金の額
子の人数 | 基本額 | 加算額(年額) | 合計額 |
---|---|---|---|
1人 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、795,000(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、792,600円)円 | 228,700円 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、1,023,700(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、1,021,300円)円 |
2人 | 457,400円 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、1,252,400(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、1,250,000円)円 | |
3人 | 533,600円 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、1,328,600(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、1,326,200円)円 |
子に支給される遺族基礎年金の額
子の人数 | 基本額 | 加算額(年額) | 合計額 |
---|---|---|---|
1人 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、795,000(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、792,600円)円 | - | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、795,000(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、792,600円)円 |
2人 | 228,700円 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、1,023,700(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、1,021,300円)円 | |
3人 | 304,900円 | 昭和31年4月2日以降生まれの人の場合、1,099,900(昭和31年4月1日以前生まれの人の場合、1,097,500円)円 |
(注)遺族厚生年金が支給される場合は、上記の遺族基礎年金に上乗せされます。
(4)遺族厚生年金はどのような人に支給されますか?
遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金は、次の①と②の要件を満たし、亡くなった人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」、「子」などに対して支給されます。
①加入要件
- (ア)厚生年金保険の被保険者が亡くなったとき
- (イ)厚生年金保険の被保険者であった人が、被保険者であった間に初診日のある傷病により、初診日から起算して5年以内に亡くなったとき
- (ウ)1級または2級の障害厚生(共済)年金の受給権者が亡くなったとき
- (エ)平成29年7月までに老齢厚生年金の受給権者であった人が亡くなったとき
- (オ)保険料納付済期間、保険料免除期間、および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある人が亡くなったとき
②保険料納付要件
死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間(学生納付特例期間、保険料納付猶予期間を含む)を合わせて3分の2以上であること。
なお、この保険料納付要件には特例があり、「令和8年4月1日前に死亡日がある場合は、死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料未納期間がなければ、保険料納付要件を満たしている」とみなされます(死亡日において65歳未満に限る)。
保険料納付要件について
【例1】原則:20歳から死亡日の前々月までに保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること
【例2】特例:死亡日が令和8年4月1日前の場合は死亡日の前々月までの1年間に保険料未納期間がないこと
遺族厚生年金が支給される遺族の範囲は、亡くなった人によって、生計を維持されていた人で、次表に掲げる人です。また、遺族厚生年金が支給される遺族には、次表のように優先順位があります。
遺族厚生年金が支給される遺族の範囲と優先順位
順位 | 遺族 | 年齢要件 |
---|---|---|
1 | 妻 | 年齢要件なし |
夫 | 死亡当時55歳以上で、支給開始は60歳(注) | |
子 | 死亡当時18歳到達年度末まで、または20歳未満で障害等級1または2級の障害者 | |
2 | 父母 | 死亡当時55歳以上で、支給開始は60歳 |
3 | 孫 | 死亡当時18歳到達年度末まで、または20歳未満で障害等級1または2級の障害者 |
4 | 祖父母 | 死亡当時55歳以上で、支給開始は60歳 |
(注)「生計を維持されていた」とは将来にわたって、年収850万円(所得ベースでは655万5,000円)以上の収入を得られない状態をいいます。
(注)夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できます。
(注)妻に遺族厚生年金の受給権がある期間は、子に対する遺族厚生年金はその間、支給停止
になります。また、子に遺族厚生年金の受給権がある期間は、夫に対する遺族厚生年金
はその間、支給停止になります。
(5)遺族厚生年金の額はいくらですか?
遺族厚生年金の額は、亡くなった人の報酬比例の年金額の4分の3になります。
ただし、遺族厚生年金の額を計算する場合、「短期要件」と「長期要件」があり、年金額計算時の乗率が異なります。
短期要件とは被保険者期間が300月未満の場合は300月として読み替えて計算するものです。
たとえば、厚生年金保険に加入して1年ほどで亡くなった場合でも300月(最低保障)加入したとみなして年金額が計算されます。
一方、長期要件とは被保険者期間を実期間で計算しますので、厚生年金の被保険者期間が短い人の場合、短期要件で計算した方が有利になることがあります。
なお、短期要件と長期要件の両方に該当する場合には短期要件に該当したものとされますが、遺族年金請求時に遺族が申し出をすれば、長期要件とされます。
①短期要件
亡くなった人が次に該当する場合は短期要件で遺族厚生年金の額を計算します。
- (ア)厚生年金保険の被保険者が亡くなったとき
- (イ)厚生年金保険の被保険者であった人が、被保険者であった間に初診日のある傷病により、初診日から起算して5年以内に亡くなったとき
- (ウ)1級または2級の障害厚生年金の受給権者が亡くなったとき
②長期要件
亡くなった人が次に該当する場合は長期要件で遺族厚生年金の額を計算します。
- (A)平成29年7月までに老齢厚生年金の受給権者であった人が亡くなったとき
- (B)保険料納付済期間、保険料免除済期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある人が亡くなったとき
遺族厚生年金の計算式
遺族厚生年金の額=(A+B)×3/4
A:平成15年3月以前の被保険者期間
平均標準報酬月額×0.007125×平成15年3月までの被保険者期間の月数
B:平成15年4月以後の被保険者期間
平均標準報酬額×0.005481×平成15年4月以後の被保険者期間の月数
- (注)長期要件の場合、上記計算式の下線部分0.007125および0.005481の乗率は生年月日に応じて0.0095~0.007125および0.007308~0.005481となります。
- (注)遺族厚生年金と遺族基礎年金は同時に支給されます。
- (注)短期要件に該当する場合、被保険者期間の月数が300月(25年)に満たないときは300月(25年)で計算します。
一元化前の遺族厚生年金と遺族共済年金の調整
遺族厚生年金と遺族共済年金の受給権がある場合、次のような調整が行われます。
長期要件の遺族厚生年金を選択したときは、長期要件の遺族共済年金とは併給されますが、短期要件の遺族共済年金を選択したときは長期要件の遺族厚生年金は不支給になります。
(6)中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算とはどのような制度ですか?
中高齢寡婦加算とは
遺族基礎年金の支給要件を満たす子がいない妻の場合、遺族厚生年金のみが支給されますが、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給している妻との公平性を保つため、遺族厚生年金のみを受給している妻には一定の要件を満たす場合に限り、「中高齢寡婦加算」が支給されます。
また、夫が亡くなった時点では遺族基礎年金の支給要件を満たす子がいて、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」が支給されていた妻が、子が成長し、遺族基礎年金の支給要件を満たす「子」に該当しなくなった場合、遺族基礎年金の受給権が消滅します(失権)。
このように後から「遺族基礎年金が支給されなくなった妻」の場合にも中高齢寡婦加算が支給されます。
中高齢寡婦加算の支給要件
次の①または②に該当する場合、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が上乗せされます。
①夫が亡くなった当時、妻が40歳以上65歳未満であって、遺族基礎年金の支給要件を満たす子がいないため、遺族基礎年金が支給されない妻であること
②40歳に達した当時、子がいるため遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給されている妻で、子が18歳到達年度の末日あるいは障害等級1級または2級で20歳に達し、遺族基礎年金が支給されなくなった妻であること
(注)長期要件((A)と(B))の場合には厚生年金保険の被保険者期間が20年以上(厚生年金保険の中高齢者の特例により15~19年以上の場合あり)であることが条件になります。
①のケース
②のケース
中高齢寡婦加算の支給期間と加算額
中高齢寡婦加算は妻が40歳から65歳になるまでの間、支給されますが、遺族基礎年金が支給されている間は支給停止になります。
中高齢寡婦加算の額は満額の遺族基礎年金の額の4分の3相当額ですので、年額596,300円(令和5年度価額)です。
経過的寡婦加算とは
遺族厚生年金を受給している妻が65歳に達した場合、妻自身の「老齢基礎年金」が支給されます。
遺族厚生年金と老齢基礎年金は併給できますが、中高齢寡婦加算は妻が65歳の時点で支給が打ち切りになります。
ただし、昭和31年4月1日以前生まれの人は老齢基礎年金の額が中高齢寡婦加算よりも低額になることがあります。
これは、昭和61年3月31日まで、サラリーマンの妻は現在のように「第3号被保険者」という被保険者制度がなく、国民年金には任意加入しなければなりませんでした。
当時、任意加入していなかった人は老齢基礎年金の額が極めて低額になってしまいました。
このような低額の年金を受給せざるを得ない人たちを救済する意味で65歳以降も遺族厚生年金に一定額を経過的に加算する制度として「経過的寡婦加算」が設けられています。
経過的寡婦加算の対象となる人は昭和31年4月1日以前に生まれた人(昭和61年4月時点で30歳以上の人)に限られます。
経過的寡婦加算の額は生年月日に応じて594,500円から19,865円(令和5年度価額)です。年齢が高い人ほど、金額は多くなります。
経過的寡婦加算のケース
(妻は昭和31年4月1日以前生まれに限る)
経過的寡婦加算の額(令和5年度価額)
生年月日 | 加算額 |
---|---|
大正15年4月2日 ~ 昭和2年4月1日 | 594,500円 |
昭和2年4月2日 ~ 昭和3年4月1日 | 564,015円 |
昭和3年4月2日 ~ 昭和4年4月1日 | 535,789円 |
昭和4年4月2日 ~ 昭和5年4月1日 | 509,579円 |
昭和5年4月2日 ~ 昭和6年4月1日 | 485,176円 |
昭和6年4月2日 ~ 昭和7年4月1日 | 462,400円 |
昭和7年4月2日 ~ 昭和8年4月1日 | 441,094円 |
昭和8年4月2日 ~ 昭和9年4月1日 | 421,119円 |
昭和9年4月2日 ~ 昭和10年4月1日 | 402,355円 |
昭和10年4月2日 ~ 昭和11年4月1日 | 384,694円 |
昭和11年4月2日 ~ 昭和12年4月1日 | 368,043円 |
昭和12年4月2日 ~ 昭和13年4月1日 | 352,317円 |
昭和13年4月2日 ~ 昭和14年4月1日 | 337,441円 |
昭和14年4月2日 ~ 昭和15年4月1日 | 323,347円 |
昭和15年4月2日 ~ 昭和16年4月1日 | 309,977円 |
昭和16年4月2日 ~ 昭和17年4月1日 | 297,275円 |
昭和17年4月2日 ~ 昭和18年4月1日 | 277,460円 |
昭和18年4月2日 ~ 昭和19年4月1日 | 257,645円 |
昭和19年4月2日 ~ 昭和20年4月1日 | 237,830円 |
昭和20年4月2日 ~ 昭和21年4月1日 | 218,015円 |
昭和21年4月2日 ~ 昭和22年4月1日 | 198,200円 |
昭和22年4月2日 ~ 昭和23年4月1日 | 178,385円 |
昭和23年4月2日 ~ 昭和24年4月1日 | 158,570円 |
昭和24年4月2日 ~ 昭和25年4月1日 | 138,755円 |
昭和25年4月2日 ~ 昭和26年4月1日 | 118,940円 |
昭和26年4月2日 ~ 昭和27年4月1日 | 99,125円 |
昭和27年4月2日 ~ 昭和28年4月1日 | 79,310円 |
昭和28年4月2日 ~ 昭和29年4月1日 | 59,495円 |
昭和29年4月2日 ~ 昭和30年4月1日 | 39,680円 |
昭和30年4月2日 ~ 昭和31年4月1日 | 19,865円 |
昭和31年4月2日以後 | ― |
(7)老齢年金と遺族年金は同時に支給されますか?
公的年金は、原則1人1年金のため、65歳になる前に、2つ以上の年金の受給権(たとえば、遺族厚生年金と特別支給の老齢厚生年金など)が発生した場合、どちらか一方の年金を選択します。
この場合、年金事務所などに「年金受給選択申出書」の提出が必要になり、選択した年金が支給され、他の年金は支給停止になります。
なお、遺族厚生年金の受給権者が65歳以上の場合は、老齢基礎年金と遺族厚生年金をあわせて受けることができます。
65歳以降に遺族厚生年金と老齢厚生年金が受給できる場合
65歳以降に遺族厚生年金と自分自身の老齢厚生年金の受給権がある場合、次の①~③のうち、最も高額となるものを受給します。
①妻自身の老齢厚生年金
②夫の遺族厚生年金
③妻自身の老齢厚生年金の1/2と夫の遺族厚生年金の2/3
まず、①の妻自身の老齢厚生年金は全額支給され、②と③の有利な方の年金額から①の金額を差し引きます。その結果、差額が生じたときは、その差額分を遺族厚生年金として支給されます。
なお、①~③のいずれにおいても、妻自身の老齢基礎年金は全額支給されます。
なお、②または③を受ける場合、妻自身の老齢厚生年金が全額支給され、②または③との差額分が遺族厚生年金として支給されます。
(8)国民年金 第1号被保険者の独自給付とは何ですか?
第1号被保険者が亡くなったときに、国民年金独自給付制度として、「寡婦年金」や「死亡一時金」が支給されることがあります。
寡婦年金
【支給要件】
第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)として保険料納付済期間と保険料免除期間(学生納付特例制度、納付猶予制度は除く)が、25年以上ある夫が亡くなったときに、妻が次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- ①死亡した夫に生計を維持されていたこと(生計同一の要件、所得の要件あり)
- ②夫との婚姻関係が10年以上継続していること(事実上の婚姻関係にある者を含む)
- ③65歳未満であること
【寡婦年金の額】
夫の老齢基礎年金額×3/4
寡婦年金の支給期間は妻が60歳から65歳になるまでです。
【寡婦年金が支給されない場合】
- ①亡くなった夫が、生前に老齢基礎年金を受給していた
- ②亡くなった夫が、障害基礎年金の受給権を持っていた
- ③妻が老齢基礎年金を繰り上げて受給している
死亡一時金
死亡一時金は、第1号被保険者として国民年金の保険料を3年以上納付し、老齢基礎年金または障害基礎年金のいずれも受給せずに亡くなったとき、亡くなった人と生計を同じくしていた遺族に対して支給されます。
支給される遺族の範囲は、亡くなった人と生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹で、支給される順位もこの通りです。
なお、寡婦年金と死亡一時金の両方を受けられる場合、どちらか一方を選択します。
また、死亡後2年を経過すると時効により、請求することができなくなります。
【死亡一時金の額】
合算した月数(注) | 支給額 |
---|---|
36月以上180月未満 | 120,000円 |
180月以上240月未満 | 145,000円 |
240月以上300月未満 | 170,000円 |
300月以上360月未満 | 220,000円 |
360月以上420月未満 | 270,000円 |
420月以上 | 320,000円 |
(注)保険料納付済期間の月数+保険料4分の1免除期間の月数×4分の3+保険料半額免除期間の月数×2分の1+保険料4分の3免除期間の月数×4分の1
(※)付加保険料を3年以上納付の場合は上記表の金額に一律8,500円が加算されます。
(9)遺族年金の受給権が消滅することもありますか?
公的年金を受給している人が、公的年金を受給できなくなる状況として「失権」があります。
失権とは、年金の受給権そのものが消滅することで、一度消滅した受給権は復活することはありません。
遺族年金の失権事由は遺族基礎年金と遺族厚生年金、受給している遺族の続柄で異なります。
遺族基礎年金の失権事由
(1) 妻と子に共通する事由 |
|
(2) 妻のみに適用する事由 |
すべての子が遺族基礎年金の減額改定事由に該当するに至ったとき(注1) |
(3) 子のみに適用する事由 |
|
(注1)減額改定事由の場合、(1)③部分が「妻以外の養子になったとき(事実上の養子縁組関係を含む)」となります。
遺族厚生年金の失権事由
(1) 受給権者(注2)に適用する事由 |
|
(2) 子または孫に適用する事由 |
|
(3) 父母、孫または祖父母に適用する事由 |
死亡した被保険者または被保険者であった人の死亡当時に胎児であった子が出生したとき |
(注2)被保険者または被保険者であった人の死亡の当時、その人によって生計を維持されていた妻、夫、子、父母、孫、祖父母(年齢の要件等があり)です。
(10)未支給年金とはどのようなものですか?
未支給年金とは、亡くなった人に支給されるはずであった年金が未払いのまま(未請求者も含む)、残っている年金のことです。
年金は亡くなった月の分まで支払われますので、必ず未支給年金が生じることになります。
未支給年金は、亡くなった人の配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹、それ以外の三親等内の親族(平成26年4月に改正)であって、その人の亡くなった当時、その人と生計を同じくしていた人の、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができます。
同順位者が2人以上いる場合は、そのうちの誰かが代表して請求します。
また、遺族には年齢の制限はありませんが、未支給年金の請求には5年の時効があります。
なお、生計を同じくしていた遺族がいない場合でも、年金の「年金受給権者死亡届」を提出する必要があります。この届出が遅れますと、年金を多く受け取ること(過払い)になり、後日、返金しなければなりません。
【未支給年金の仕組み】
たとえば、9月20日に亡くなった場合の未支給年金は・・
8月15日の年金支給日には6月・7月分が本人に支給されていますので、未支給年金は、8月と亡くなった月の9月の計2か月分となります。
(11)子どものいない30歳未満の妻に支給される遺族厚生年金とはどのようなものですか?
平成19年4月1日以降は妻の年齢と遺族基礎年金の対象となる子どもがいるか、いないかで遺族厚生年金の受給期間が決まる仕組みになりました。
30歳未満で子どものいない妻
〈平成19年4月1日以降に遺族厚生年金の受給権が発生した場合〉
(1)のケース:30歳未満で子どものいない妻
夫の死亡時に妻が30歳未満で、遺族基礎年金の受給権の対象となる子どものいない妻に対する遺族厚生年金は5年間の有期給付です。
(2)のケース:30歳未満で子どものいる妻
遺族基礎年金の受給権の対象となる子どもが死亡等で遺族基礎年金を失権した場合には失権から5年間の有期給付です。
(3)のケース:30歳未満で子どものいる妻
遺族基礎年金の受給権の対象となる子どもが18歳到達年度の末日時点で遺族基礎年金の受給権は失権しますが、妻が30歳以上の場合、遺族厚生年金は一生涯支給されます。
また、妻が40歳時の遺族基礎年金が失権した時点から65歳になるまで中高齢寡婦加算が支給されます。
(12)遺族年金の請求はどのようにすればよいですか?
①年金請求書の提出先
遺族年金の請求書の提出先は、亡くなった人が加入していた年金制度に応じて異なります。
亡くなった人が加入していた年金制度 | 年金請求書書類名 | 年金請求書提出先 |
---|---|---|
国民年金のみに加入(第1号被保険者期間のみの人) | ●年金請求書 (国民年金遺族基礎年金) ●年金請求書 (国民年金寡婦年金) ●国民年金死亡一時金請求書 |
市区町村役場 |
厚生年金保険のみに加入 | 年金請求書 (国民年金・厚生年金保険遺族給付) |
年金事務所または街角の年金相談センター |
最後に加入していたのが厚生年金保険 | 年金請求書 (国民年金・厚生年金保険遺族給付) |
年金事務所または街角の年金相談センター |
(注)国民年金および厚生年金保険の年金請求書は市区町村役場、または全国の年金事務所あるいは街角の年金相談センターに備え付けてあります。
②遺族給付年金請求書に添付するおもな書類
ご家族状況などで提出する書類が異なりますので、個別のケースについては必ず年金事務所などでご確認下さい。
番 号 |
書類名 | 対象となる人 |
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1 | 年金手帳(被保険者証)・基礎年金番号通知書 | 亡くなった人・請求者 |
2 | 年金証書・恩給証書(受給権があるものすべて) | 亡くなった人・請求者 |
3 | 戸籍抄本・戸籍謄本・戸籍全部事項証明書 (受給権発生年月日(死亡された日)以降のもの) |
亡くなった人・請求者 |
4 | 住民票(生計維持証明) (受給権発生年月日(死亡された日)以降のもので世帯主・続柄・変更事項の記載のあるもの) |
請求者・世帯全員 |
5 | 住民票の除票 (受給権発生年月日(死亡された日)以降のもので世帯主・続柄・変更事項の記載のあるもの) |
亡くなった人 |
6 | 所得証明書・課税(非課税)証明書 (該当年分) |
請求者・子 |
7 | 死亡診断書(死体検案書等)(コピーでも可)または死亡届の記載事項証明 | 亡くなった人 |
8 | 請求者名義の預金通帳、貯金通帳またはキャッシュカード 公金受取口座を利用する場合は、受取機関の通帳等のコピーの添付は不要 |
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9 | 未支給年金・保険給付請求書 | |
10 | 在学証明書・学生証 | 義務教育修了後の子 |
11 | 健康保険被保険者証・共済組合員証 (扶養者・被扶養者を確認できるもの) |
亡くなった人・請求者・子 |
12 | その他
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(注)戸籍謄本、戸籍抄本、所得証明書などについてはいつの時点で発行されたものであるかといった指定がありますので、必ず書類の発行日をご確認下さい。
(注)情報連携により、4・5・6については原則として省略できます。
詳細につきましては日本年金機構のホームページをご覧下さい。
http://www.nenkin.go.jp/