(1)「相続人」には誰がなりますか。

人が死亡し相続が開始した場合、相続人(法定相続人)は誰かについては、民法第五編相続の第二章相続人で定められています。


<法定相続人の範囲>

法定相続人の範囲

(注1)配偶者は、常に相続人となります。

(注2)第2順位の直系尊属は、第1順位の子供(養子を含みます。以下同じ)がいない場合に相続人となります。

(注3)第3順位の兄弟姉妹は、第1順位の子供及び第2順位の直系尊属がいない場合に相続人となります。

(注4)子供、直系尊属、兄弟姉妹が数人いるときは、法定相続分を人数分で分けます。

(注5)相続人である子供、兄弟姉妹が被相続人より先に死亡していた場合、孫(相続人が子供の場合)、甥・姪(相続人が兄弟姉妹の場合)が代襲相続人となります。

(注6)両親(父・母)が相続人のとき、両親が被相続人より先に死亡していた場合、祖父母が相続人となります。

(2)自分が法定相続人に該当する場合、どのような選択肢がありますか。

相続人は、相続開始の時から、被相続人に属した財産上の一切の権利義務を承継しますが、相続人には次の単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選択することができる権利が与えられています。

資産も債務もすべての財産を承継する 単純承認 相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所へ、次の限定承認、相続放棄の手続きを行わない場合には、被相続人の資産と債務のすべての財産を承継することになります。
すべてを承継するが債務は相続によって得た資産を限度に承継する 限定承認 ア.資産と債務のすべてを承継しますが、債務は相続によって得た資産を限度として承継します。
イ.相続開始を知った日から3カ月以内に、相続人全員で家庭裁判所へ相続の限定承認申立書を提出します。
資産も債務もすべての財産を承継しない 相続放棄 ア.相続の放棄をした場合には、初めから相続人でなかったものとみなされます。
イ.相続の放棄は限定承認と異なり、相続人1人でも手続きを行うことができます。
ウ.相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出します。

(3)自分以外にも法定相続人がいる場合、相続の割合はどうなりますか。

相続が開始した場合、承継する財産の持ち分(法定相続分)については、民法第五編相続の第三章相続の効力で定められています。

法定相続分

相続人 法定相続分
各順位者 配偶者
第1順位 子供 + 配偶者の場合 2分の1 2分の1
第2順位 直系尊属(父・母) + 配偶者の場合 3分の1 3分の2
第3順位 兄弟姉妹 + 配偶者の場合 4分の1 4分の3

(注1) 子供、直系尊属、兄弟姉妹が複数いる場合は、「各順位者」の法定相続分を人数分で均等にします。

(4)財産の相続を指定したい。遺言書はどう作成すればよいですか。

被相続人の財産は、遺言書がない場合、民法の定める相続分(法定相続分)に鑑み、相続人間で遺産分割協議を行い持ち分を決めることになります。
遺言書は、財産の維持・増加について特別の貢献をしてくれた者等に対し、法定相続分と異なる割合で相続又は遺贈することも考えられます。生前の贈与等を含めて、相続人間の公平を保つ形で分割方法を遺言書で指定しておくことは、相続人間の争いを避ける方法にもなります。
遺言の方式には普通方式(公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言)と特別方式があります。

<普通方式の主な遺言の種類>

  公正証書遺言 自筆証書遺言
筆記者
署名・押印者
言者が遺言を口述し、公証人が筆記する 言者が遺言書の全文・日付・氏名を自署し、押印
言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自署名押印
公証人が証書は方式に従い適正である旨を付記し、署名押印
証人・立会人 証人2人以上の立会い 不要
家庭裁判所の検認 不要 必要

※遺言書作成の留意事項(遺留分の割合に注意)
遺言書の作成に際し、法定相続人(兄弟姉妹を除く)については、相続財産のうち一定割合の持ち分を有している(遺留分)ことに留意して、相続人等へ分割する財産を定めます。

法定相続人 遺留分
配偶者と子供の遺留分 法定相続分の2分の1
直系尊属の遺留分 法定相続分の3分の1
兄弟姉妹の遺留分 なし

(5)相続が発生した場合、相続税はどのように計算しますか

正味の遺産額が遺産に係る基礎控除を超える場合は、相続の開始があったことを知った日から10カ月以内に、被相続人の住所地の所轄税務署長へ「相続税申告書」を提出し、納税します。
相続税の計算概要は次のとおりですが、小規模宅地の評価減・配偶者の税額軽減等の特例がありますので、詳細につきましては国税庁ホームページ等を参照願います。

1)課税遺産総額の計算
ア.遺産総額の把握(相続時精算課税の適用を受ける財産の価額を含む)
イ.非課税財産、債務、葬式費用の把握
ウ.遺産額= ア - イ
エ.正味の遺産額= ウ + 相続開始前3年以内の贈与財産
オ.課税遺産総額= エ - 遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
(注)平成26年12月31日までの相続(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)


2)相続税の計算

ア.課税遺産総額を法定相続分どおりにあん分したものとして、計算した額に税率を適用して、各法定相続人別に税額を計算します。

イ.上記ア各法定相続人別の税額を合計したものが相続税の総額となります。

ウ.上記イ相続税の総額を、各相続人、受遺者及び相続時精算課税を適用した人が実際に取得した正味の遺産額の割合に応じて各人の算出税額を計算します。

エ.上記ウ遺産額の割合に応じて計算した各人の算出税額から配偶者の税額軽減、未成年者控除等の税額控除を差し引いて、実際に納める税額を計算します。

(注)配偶者の税額軽減
配偶者が相続により取得した正味の遺産額について「1億6,000万円」又は「配偶者の法定相続分相当額」のうち、いずれか大きい金額までは配偶者に相続税がかかりません。


3)その他

ア.相続税における宅地や建物・株式等の財産評価については、国税庁で定める財産評価基本通達に基づき、相続における時価により算出します。

イ.小規模宅地等の特例等及び相続税の計算等の詳細につきましては、国税庁ホームページ「暮らしの税情報」等を参照願います。

(6)相続税、贈与税の適用(平成27年1月1日以後の相続、贈与)

1)相続税の基礎控除
3,000万円+( 600万円×法定相続人の数)= 基礎控除額

2)相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

3)小規模宅地等の特例
被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等がある場合には、一定の要件の下に、遺産である宅地等のうち限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます)について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上80%減額できます(貸付事業用宅地等は50%減額できます)。

特定居住用宅地等に係る適用要件

①二世帯住宅で構造上区分された住居(区分登記された住宅を除く)の敷地でも、「同居の親族」として敷地全体が特例の対象となります。

②老人ホーム等に入居等をして、被相続人が居住しなくなった家屋の敷地について、次の要件を満たせば特例の対象となります。
イ. 介護が必要なため入所したものであること。
ロ.家屋が貸付け等の用途に供されていないこと。


4)未成年者控除および障害者控除

<未成年者控除>
18歳に達するまでの1年につき10万円
令和4年4月1日以降の相続・遺贈から適用となります。

<障害者控除>
85歳までの1年につき10万円
(注)特別障害者控除については1年につき20万円


5)贈与税の税率構造
令和5年度税制改正によって、暦年課税された贈与財産の相続財産への加算の範囲の改正がされています。なお、税率等の改正はありませんでした。
暦年課税の場合において、直系尊属(父母・祖父母)からの贈与により財産を取得した受贈者(財産の贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限ります)については、「特例税率」を適用して税額を計算します。
この特例税率の適用がある財産のことを「特例贈与財産」といい、特例税率の適用がない財産のことを「一般贈与財産」といい「一般税率」を適用します。

基礎控除後の課税価格 一般税率
(一般贈与財産)
特例税率
(特例贈与財産)
200万円以下 10% 10%
300万円以下 15% 15%
400万円以下 20%
600万円以下 30% 20%
1,000万円以下 40% 30%
1,500万円以下 45% 40%
3,000万円以下 50% 45%
4,500万円以下 55% 50%
4,500万円超 55%

6)相続時精算課税制度の適用要件
令和5年度税制改正によって、相続時精算課税制度について大きな改正が行われていますのでご確認ください。
次の「①対象者」の要件に該当する贈与を受ける場合には、贈与者毎に「暦年課税」または「相続時精算課税」の選択ができます。このとき、相続時精算課税を選択した場合、選択した財産は贈与者の死亡のときに相続税の課税価格に算入し、納付した贈与税額は相続税額から控除します。なお、令和5年度税制改正により、贈与制度について、相続時精算課税制度に基礎控除制度が導入されるなど大きな改正がされましたので、「暦年課税」または「相続時精算課税」のいずれかを選択する際には注意を要します。

①対象者(年齢は贈与の年の1月1日現在となります)

  • ア.贈与者(贈与する人)は60歳以上である父母又は祖父母
  • イ.受贈者(贈与を受ける人)は18歳以上の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫
②税務署への届出・申告
この制度を選択しようとする受贈者は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの申告期間内に「相続時精算課税選択届出書」と一定の書類を添付して税務署へ申告します。なお、令和5年度税制改正により一定の場合の贈与については「相続時精算課税選択届出書」のみを提出でよいこととされました。


7)教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置
子・孫(30歳未満、以下「受贈者」という)の教育資金に充てるために直系尊属が金銭等を拠出し、金融機関(信託会社等を含む)等に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については500万円)までを非課税とします。(令和5年度税制改正により拠出期間が令和8年3月31日まで延長されました)


(注)教育資金とは、文部科学大臣が定める次の金銭をいうものとされます。
ア.学校等に支払われる入学金その他の金銭
イ.学校等以外の者に支払われる金銭のうち一定のもの