第2部:特別鼎談

被災地の復興に向けて

寺島 実郎 氏

寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所会長

奥山 恵美子 氏

奥山 恵美子 氏仙台市長

石川 幹子 氏

石川 幹子 氏岩沼市震災復興会議議長

■世界に誇れる創造的復興へ
~心躍る未来のグランドデザインを~

  • 奥山市長 氏『復興に欠かせない農業再生』
  • 石川 氏『ものづくりへの誇りを力に』
  • 寺島 氏『未来ある若者の参画を』

寺島 実郎 氏

現場と向き合ってきたお二人は、具体的にどんな取組みをしてきたのでしょう。

奥山 恵美子 氏

1年目最大の施策は、救援救助はもちろん、劣悪な環境の避難所から早く移っていただくために、国に働きかけて仙台市内の空室賃貸住宅を、みなし仮設として認めてもらったこと。その結果、避難所は6月末にはすべて閉鎖でき、仙台市では1万世帯のうち1000世帯がプレハブ仮設、9000世帯がみなし仮設に暮らすことになりました。2年目は復興庁相手に、事業予算獲得にまい進した年でした。

寺島 実郎 氏

石川さんは、復興の現場で「岩沼モデル」と呼ばれるものを創出されました。

石川 幹子 氏

私は岩沼育ちで、故郷をなんとかしたくて、震災1ヵ月後の4月12日、岩沼市役所へ東京大学として支援したいと申し入れ、岩沼市―東大ペアリング支援が始まりました。スピード感のある復興として、塩害に強いトマトを育てて東京で売ったり、住民の自立再生を柱にワークショップを重ねた末、農業が力強く立ち上がってきました。防災集団移転も、被災地で最初に動き出しました。防災面では、堤防だけでは守れないことがわかった今、海岸林やいぐね等の多重防御による安全なまちづくりを進めています。

寺島 実郎 氏

復興へ、現状はどこまで来ていますか。

奥山 恵美子 氏

集団移転が本格的に動き出すとともに、仙台でも多重防災を目ざし、かさ上げ道路の用地を取得中です。今後、復興の基軸となるのは、力強く農業を再生する農と食のフロンティアプロジェクト。農業の大規模化、法人集約化により復興につなげたい。また省エネ、新エネプロジェクトでは、東北大と筑波大による藻類バイオマスの研究開発が動き出しました。

石川 幹子 氏

岩沼では、復興へのプロジェクトとして農業再生、自然共生、国際産業・医療都市、自然エネルギー、文化的景観の保全を掲げています。現地に通い、強く感じたのはものをつくる東北人のきまじめさ。これはものづくりへの誇りであり、復興の力になるものです。アジアの若者を仙台空港を利用して受け入れて学んでもらい、産業として結びつけることで、アジアとの太い架け橋を築けるのではないでしょうか。

寺島 実郎 氏

仙台、岩沼を含めて宮城をどうするか。食材王国としてのみやぎの農業を活力ある産業として戦力にしていくには、先端的産業技術を引っぱってくることも必要です。

奥山 恵美子 氏

商品化できる農業を育てる、また、生産力を上げるために企業のノウハウも農家に取り入れていくことは重要で、オープンマインドも大切でしょう。

寺島 実郎 氏

米国では国内での災害復興に、若者が報酬をもらって災害地で1~2年働くという構想があります。宮城県の復興応援隊がそれで、新しい交流の芽として、未来ある若者の参画と創造力にさらなる期待をしたいところです。

奥山 恵美子 氏

大震災後にもたらされたものの一つが、力も若さもある人材でした。国際NGO、また企業の東北復興支援室の開設で、様々なものをつなぎ組み合わせる仕事をしてくれた方たちがきて、将来につながった。

石川 幹子 氏

赤字の水田をつくってきたのは国土保全のためだという話を仮設住宅で聞き、志の高さに頭が下がりました。若い後継者がいなければ、農業やその知恵を継承する人もいなくなってしまいます。司馬遼太郎が『街道をゆく』の中で、伊達政宗が造った防災林や貞山堀の美しい景観が保たれているのに驚き、無骨で教養ある宮城県人へ畏敬の念を持ったと書いています。大きな視点で青写真を描き、次世代へ手渡していける復興とすべき、と思います。

寺島 実郎 氏

宮城で造った帆船サンファンバウティスタ号は、かの咸臨丸の250年も前に、支倉常長を乗せて欧州を往復しています。この技術力には、感動と迫力を感じます。県市町村は頑張って芽を出している。復興2年目、ここからは東北ブロックが、一緒になって本気でやる、未来の東北と日本のために心躍るグランドデザインの花を咲かせなければならない時期がきています。


出典:河北新報 2013年5月31日朝刊 掲載
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