第1部:基調講演
真の「地方創生」とはなにか
片山 善博 氏早稲田大学
政治経済学術院教授
今、安部政権は「地方創生」を財政上の最重要課題の一つとしています。人口減少で元気のない地方を再生させ、活力ある暮らしを住民ができるまちづくりのことです。
現在、どの地域も地方創生がうまくいっていません。人口は減少し2040年頃には日本の市町村の半分強が「消滅可能性自治体」になり、自治体として機能を維持できなくなるのではという予測もあるほど事態は深刻です。
これまでの政策では、大きな成果は得られませんでした。たとえば、1万円出したら1万2,000円の商品券がもらえる各自治体の「プレミアム付き商品券」です。国は地域経済回復の起爆剤として進めたのかもしれませんが、これが若者の人口流出や雇用の改善にはつながりません。国の官僚が首都圏在住者ばかりというのも一因です。地方の実情を把握しきれていないのでピンとこないのです。国の言う事だけに従っていては、地方創生は難しいのです。
私は鳥取県知事時代、若者の人口流出対策に悩みました。進学・卒業後もUターン就職してこなかったのは雇用の場がないからです。実は鳥取県は県外から物を買うのが圧倒的に多くて、逆に売る物が少ない大赤字県でした。ですから経済は疲弊し、若者だけでなく県民も仕事の場が失われていたのです。
いくら橋や道路などの公共事業を行っても、県外のゼネコンにお金が流れるばかりで県内への経済効果は微々たるものです。公共事業政策はあまり意味がありませんでした。企業誘致や、特産本の製造と販売促進も試みましたが、正直振るわず、なかなか打つ手がありませんでした。
そこで考えたのが、県外にお金が流出するのを抑えて、そのぶん県内で賄う「置き換え」の発想でした。まず始めたのが、風力発電などの自然再生エネルギー政策でした。鳥取県は、エネルギーをほとんど県外から買っています。ですがエネルギーは日常で必ず使うものであり、自給率を上げれば、その分確実に県内にお金が落ちます。電力会社の失笑を買いながらも、少ない基数から細々と電力発電事業を始めました。
「自給自足」の例を挙げれば、製材の木くずを燃料にしたバイオマス発電や学校給食のパンの小麦を地元で生産、カキ殻を粉末肥料にした良質な米の生産などの取り組みがあります。いわゆる「地産地消」です。もちろん、どれも小規模プロジェクトですから、一揆に地域の問題解決にはなりません。しかし、これ以上県外にお金を出さず、県内でお金を発生させる着実な手法なのです。
地方創生は国が音頭を取るばかりでなく、地域自らが先導してこそ、地元の底力が発揮されます。小さなことでも知恵を出し合い、地域経済の活性化に役立てることが大切です。地域の資源や持て余しているものを利用し、その経験を積み重ねることが必要です。野球で言えばバント作戦ですが、ちりも積もれば山となります。コツコツと力を蓄え、それを集積していくことが地域の将来に有効な手立てとなり、やがては真の地方創生の一助になると思っています。