第1部:講演

真の復興への視座
〜東日本大震災からの復興に向けて〜

寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所会長

■東北全体デザインが必要

岩手の復興の進捗状況を見て、方向感のある復興構想実現のために立ち上がっている姿がよく分かります。「安全」、「暮らし」、「なりわい」を軸に、構想を固めているようですが、「なりわい」について、みなさんが考えるヒントになる話ができればと思います。

復興は大きな構想力を持って方向付けすべきものです。県や市町村の復興計画は、それなりのものが出ていますが、東北全体の復興のグランドデザインが見えない。これは最大の国家責任と言えます。

■アジアダイナミズム

東北6県に新潟を加えた「東北圏」は、もともと2050年には人口が3割減少し、さらに高齢者比率は約45%になると予測されていました。今回の震災を踏まえれば、よほどの構想力を持って立ち向かわない限り、「過疎化と高齢化」は一段と加速されます。

そこで、「太平洋側と日本海側の東北部を一体として相関させて復興させる」構想が重要です。岩手にとっての秋田、宮城にとっての山形、福島にとっての新潟は、これからの地域経済にとって重要な意味を持ちます。なぜなら「アジアダイナミズム」がキーワードになっているからです。

日本の貿易相手国のシェアの推移を見ると、対米貿易は1990年に27.4%ありましたが、2011年度は11.9%に減少。一方、中国は1990年に3.5%だったのが、2011年は20.6%。対米貿易の2倍に迫る勢いです。

さらに「大中華圏(中国本土、香港、シンガポール、台湾の華僑圏との連結の中国)」というくくりで見ることも大切。中国は香港や台湾の資本と技術をうまく取り込みながら発展しているからです。

2009年の世界港湾ランキング(コンテナ取扱量)を見ても、1位シンガポール、2位上海、3位香港など「大中華圏」の港がトップ10入りしています。5位の釜山も中米貿易の増加で〝ハブ化〟が進んでいます。

これにより、日本の物流構造も変化してきました。太平洋側の港は空洞化し、日本海側にシフトしているのです。だから、日本海側と太平洋側を戦略的につなぐという構想の中で、東北地域の復興を描かないといけないということです。

■有効に日本列島活用

また、今回の震災では太平洋側と日本海側をつなぐ道路の役割が大きかったですし、首都圏だけに機能が集中していることの危険性も東京は思い知りました。データセンターの分散化など、あらゆる意味で日本列島を有効に使っていかなければなりません。

再生可能エネルギーの話もしますと、太陽光や風力、地熱に目が行きがちですが、一歩踏み込んだ知恵が必要。太陽光パネルの効率を上げても、単純に電力を取り出すということだけで、産業のパラダイム(認識の枠組み、物事のとらえ方)が変わるというほどのものではありません。ただ、バイオマスは違います。

バイオリファイナリー(再生可能資源のバイオマスからバイオ燃料などを製造する技術)をベースにバイオケミカルを起こせば、日本の産業と国民生活のパラダイムを変える可能性があります。この技術は日本が進んでいます。岩手のように農林水産業をベースにしている県が取り組むべき柱になるかもしれません。