第2部:特別対談

被災地の復興に向けて

達増 拓也 氏

達増 拓也 氏岩手県知事

寺島 実郎 氏

寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所会長

寺島 実郎 氏

震災から一年を振り返っていかがですか。

達増 拓也 氏

県や被災した市町村の復興計画、国の交付金制度なども整いはじめ、行政がフルセットで復興を進めていく体制はできてきました。一方で、県や市町村の計画は骨格の段階で、具体的な肉付けはこれからです。

寺島 実郎 氏

県などが取り組んでいる「いわて三陸復興のかけ橋」プロジェクトに興味を持っています。

達増 拓也 氏

震災後に上京したとき、多くの企業や団体が被災地を支援したいという気持ちを持っていながら、実行に結びついていないことに気付きました。そういうマッチングをしようというのがこのプロジェクト。いわて未来づくり機構という産学官の組織が事務局になり、行政のラインとは別に復興を進める司令塔を作ったことが特長です。

寺島 実郎 氏

プロジェクトではいろいろなアイデアを募集し、実現のきっかけを作ろうとしています。そこで、若者の参画が重要だと思っています。 ボランティアではなく、少なくてもいいから給料を払って1、2年腰を据えて頑張る若者を全国から公募する。そうやって雇用をしながら、今の苦しい時に次の日本のために役立つ人材を育てておくことが大切ではないでしょうか。かけ橋プロジェクトはそのきっかけになると感じています。

達増 拓也 氏

県としても多様な参画をいただかないと復興は容易ではないという認識がありますので、大歓迎です。

寺島 実郎 氏

神戸、新潟、東日本の三つの震災を比較すると、災害時にケータイやコンビニが果たす役割は大きく進化しました。ところが、いっこうに進化していないのが避難所の形態。近くの小・中学校の体育館にござを敷いて、プライバシーがないところで我慢していました。
そこで考えたのは、「道の駅」を防災拠点にできないかということです。避難所の一番の問題は水回り。例えばコンテナに水回りだけの設備を作り、「道の駅」などに配置する。コンテナは空輸できますから、いざ災害が起きたら機動的に運ぶ。避難所の環境を劇的に変えないと、病気になったりもするでしょう。防災も科学技術的なものを踏まえて、いよいよ進化させないといけませんね。

達増 拓也 氏

体育館や公民館などを避難所としているのは、大雨などの際に一時的な避難をするために用意しているものなので、そこに数週間、数カ月いるというのは、発想を切り替えなければいけません。県でも、昨年2月にニュージーランドで発生した地震災害における教訓により、先進国に見合った避難生活を確保するという観点から、希望する避難者を、仮設住宅などへ入るまで一時的に内陸のホテルなどに移っていただき、体を休めてもらうという取り組みも行いました。

「かけ橋」を産学官で達増知事/全国の若者参画望む寺島氏 2013年11月9日浅草橋ヒューリックホールでのシンポジウム会場の様子_2

寺島 実郎 氏

岩手の復興計画で面白い発想があります。地下トンネルに建設される国際的な大規模研究施設である国際リニアコライダー(ILC)や平泉の世界遺産です。

達増 拓也 氏

世界遺産に認められた「平泉」の「人と人との共生」「人と自然との共生」の理念は、日本や世界のあるべき姿に通じます。ILCもオール東北あるいは日本全体として取り組むにふさわしいテーマ。(立地の候補になっている)北上高地は今回の地震でもびくともしなかったので、地震に強いことが証明されました。

寺島 実郎 氏

復興には中心概念がないといけません。日本人の精神が試されている時に、「平泉の理念」は必要です。また、ILCのような研究開発拠点を持ってくるには、リーダーの強烈なメッセージも重要だと思います。岩手のポテンシャルは高いと思いますので、ぜひ頑張って下さい。



出典:岩手日報 2012年4月23日朝刊 掲載
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