第1部:基調講演

真の『地方創生』とは
~地方自治と地域の再生を考える~

片山 善博 氏慶應義塾大学法学部教授
元鳥取県知事、元総務大臣

地方創生とは、地方経済の活性化や、若い世代が地元で仕事を見つけ、家庭を持ち、子育てをして地域社会をつくっていくこと。その大前提となるのが安全で安心して暮らせる地域です。しかし、地震などの自然災害はなくせません。万が一、大きな災害が起きても被害を最小限に食い止め、安心した暮らしを早く取り戻せるようにすることや、普段から防災意識を高め、災害に備えることが重要です。

政府は一昨年に「地方創生」という政策を掲げました。日本が将来の人口動態に大きな問題を抱えているからです。まず、日本全体の人口減少。そして、地方の人口減少がすこぶる大きいこと。このままの状況が続くと、自治体としての機能を維持できなくなります。消滅可能性自治体ともいわれています。「地方が再生し、若い人が東京へ出て行かないようにしなければ」「地域を担っていくようにしなければならない」…地方創生の着眼点はまさにそこです。この政策は正しいと思います。しかし、うまくいっていないというのが私の印象です。

地方創生の政策として、全国の自治体が取り組んだ事業に「プレミアム商品券」の発行がありました。売り上げが多少伸びたという商店はあるかもしれませんが、「地域経済に明るい見通しがついた」「若者が地域にとどまってくれそうだ」といった声はあまり聞かれません。困っている地方に手当するのはいいことですが、人口が増えている東京都の区役所でも同じことをやるのはどうか。国の政策をきっかけに、地方が頑張ることはいいのですが、国が敷いたレールを走ると、必ず上手くいくとは思わないほうがいい。もっと自分本位に考え、いい部分だけを取り込む。自分のところで何が大切かを考えて力を入れることが重要です。

自分本位、地域本位にやるとはどういうことか。地域が真剣に自分たちの弱点を考えることです。まず、毎年若い人が出て行く理由を考えると、仕事がないから。若い人にとって魅力のある仕事、一生をその職場に投じ、プライドと誇りを持ち、経済的にも家族を養っていける仕事が十分ではないということ。どうして若い人の仕事が不足しているのかが次の課題です。これは経済が活発でないから。その要因として、お金が地域からどんどん流失しているからです。そうなると仕事も出て行きます。たとえば、地元の豆腐屋から豆腐を買うと、その店にお金が落ちますが、安いからといって大型量販店の豆腐を買うと、他地域にお金と雇用が流れていきます。鳥取県知事の時代にこの資金流出に気づき、最大の弱点であるエネルギーの自給率を高める政策を始めました。

若い人の流出を食い止めるには地方経済を活発にしなくてはいけません。その一方、「地方創生」と声高にいって、勘違いしている取り組みもあります。たとえば、にぎわい創出。地域ににぎわいを取り戻そうというのはいいのですが、その拠点づくりとして先ほど言った大型量販店の誘致がよく行われます。そうすると地元の商店街は先細りしていきます。消費者にとっては、駐車場があり、一カ所でいろんなものが安く買え、便利で快適な空間であることは否定できませんが、長い目で地域経済を見ると、お金が外に出ていく傾向に拍車がかかり、経済がだんだん弱くなっていきます。地域で雇用をつくるとすれば、地域経済全体を分析し、お金が出ていかないようにすることが大事ではないでしょうか。