第1部:基調講演

狼と子羊が共に生きるとき

浜 矩子 氏同志社大学大学院
ビジネス研究科教授

日本が再び栄えるためには、実現すべき三つのテーマがあります。

一つ目は『狼と子羊が共に生きる』社会を作ること。例えば大手スーパーを「狼」とすると、地域の個人商店は「子羊」。震災後、スーパーから物が消える一方で、個人商店にはきちんと物が揃っていた。私はその体験を通じて、狼は狼の、子羊は子羊の役割がある。それぞれの役目を果たしながら互いに支え合い、共存していける社会を作ることが重要だと痛感しました。

二つ目は『多様性の小宇宙』を実現すること。復興が叫ばれる中で「分散型社会」という言葉を耳にします。それは、政治・経済などの一極集中を改め、例えば政治は東京に、経済は大阪に分散しようというもの。しかしそれでは、形を変えた一極集中にすぎません。そこで私は、日本全国にある地域社会や地域共同体のそれぞれの中に、すべての機能がバランスよく内包された社会「多様性の小宇宙」を目指すべきだと考えています。それができれば、創造性に雷んだ活力ある経済となり、新しい展開が生まれてきます。

最後は『二つのSCP』を実践すること。震災後、特に意識されるようになった言葉のひとつに「BCP」があります。これは「ビジネス・コンティニュイティー・プラン(Business Continuity Plan)」の略称で、事業継続性計画の意。震災のような事態が起きても、事業を続けられる計画をしておくべきというもの。しかし、元の木阿弥になっては意味がない。そこでBCPをもじった「二つのSCP」。それは「センシティビティー・コンティニュイティー・プラン(Sensitivity Continuity Plan)」感受性持続計画と、「ストーリー・コンティニュイティー・プラン(Story Continuty Plan)」物語持続性計画です。震災に見舞われた時、何を感じ、何を思ったのか。その感受性を忘れずに持ち続けること。そして、その体験を風化させないように語り継いでいくこと。同じ轍を踏まないためにも、二つの訓戒が必要だと考えています。

改めて日本にとっての繁栄を考えたとき、私は「老いは楽しい、老いは楽だ」という「老楽(おいらく)国家」をイメージしました。日本は戦後、一貫した集権的管理の下でひた走り、世界で最もリッチな国のひとつになりました。すなわち、非常に成熟度の高い大人の国になったということ。何かにつけて新たな成長戦略が叫ばれていますが、今の日本に必要なのは「成熟戦略」です。これまで蓄積してきた豊かな富を分かち合い、成熟国家として繁栄していくべき時なのです。