人生90年時代の新しい住まい方
―豊四季台団地での取り組みより―
―いま住宅の話がありました。住宅政策という点で、豊四季台団地の特徴的な取り組みをさらに詳しく教えていただけますでしょうか。
日本の住宅政策は持ち家制度でした。30代後半までにローンを組み、郊外に土地を買って2階建ての家を建てることがサラリーマンの夢で、定年近くまでかけてローンを返済する。それがお城であったわけです。ところが、そうやってお父さんが一生懸命働いて建てた家が、いま多くの高齢者にとってはストレス源になっています。子どもたちが出て行った後、15年ぐらいは2階の雨戸を全く開けていない。居間のカーテンを開けると雑草や庭木が繁っているので、カーテンを閉めて見ないことにしている。そういう声をよく聞きます。
人生90年時代には、2階建ての家を遠いところに建てるのではなく、それぞれのライフステージのニーズに合ったところに住み替えていく。そういう循環型の住宅住み替え方式がいいのではないか。豊四季台団地は2DKのワンパターンのアパートが5,000戸ある団地ですが、いまUR(都市再生機構)が建て替えている新しい住棟には、大きなユニットと小さいユニットがあります。
例えば、子育てをしているときには大きなユニットに住み、子どもたちが出て行ったら小さいユニットに移る。同じ敷地の中にサービス付きの高齢者向け住宅があり、一人暮らしが少し自信がなくなったらそこに移る。さらに重度な介護が必要になった人のために、グループホームや特別養護老人ホームがすでに団地内にできています。そういう形の循環型住宅が人生90年時代にはフィットするのではないかと思います。 引っ越しても同じ八百屋で買い物をし、同じお医者さんに診てもらい、顔なじみの人たちに囲まれて、快適に一生を過ごせる。そういう新しい住まい方です。
URは、1960年代に新しい住まい方のトレンドセッターになりました。それまでは3世代、4世代が障子や襖を隔てて同じ家で生活をしていましたが、夫婦と子どもだけの核家族で台所とリビングが続いている2DKに住んで自分たちのライフスタイルで自由に生活できる。日本人の住まい方が大きく変わりました。私はいま、URが再び人生90年時代の新しい住まい方のトレンドセッターとなることを切に願っています。
─社会保障審議会の医療保険部会や、先日発足した社会保障制度改革国民会議の中でも、特に医療、介護の問題は重要なテーマになっています。そこでも先生がおっしゃったように、在宅医療の推進や、その前提となる健康寿命について議論がされているのですが、具体的に豊四季台団地の中ではどのような展開をされていらっしゃるのでしょうか。
いま豊四季台団地を4期に分けて建て替えており、住棟の1期工事は終わり入居が完了しています。これから始まる2期工事は、商業地区や公共の建物がある地区です。この地区に、包括的な在宅医療・介護の拠点をつくる計画です。そこには診療所、24時間対応の訪問看護と訪問介護のステーション、訪問リハビリ、訪問歯科などが入ります。元気なときは診療所で外来診療を行い、必要になったら住んでいらっしゃるところまで医療や介護のサービスが届けられる。いつでも安心して医療や介護を受けることができるシステムを目指しています。
そういうシステムを支える人材も大切ですね。まちのお医者さんの訪問診療の研修。医師、看護師、介護士、歯科医、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)も含めて多職種が連携して医療や介護のサービスに当たりますので、その連携のシステムづくりの研修も行っています。