第1部:基調講演①

社会保障・税一体改革の見落としてはならない論点

金子 勝 氏慶應義塾大学経済学部
教授

世界経済は100年に一度の危機が続いています。日本はこの不況のなかで、雇用が失われ、少子高齢化や家族の解体などといった問題も重なり、社会統合の軸であったこれまでの制度自体が壊れつつあります。

日本は今まで大量生産によるコスト削減、大量消費を促すような「集中メーンフレーム型」でした。私は、一つひとつは小さくても総合したら力となる「地域分散ネットワーク型」に経済構造が変わっていかなければならないと思います。

社会保障も同じように転換期を迎えています。年金給付だけを高くしても国の赤字は大きくなるだけです。むしろ現物給付が充実している方が財政的にもいい。現物給付も地域によって必要な医療や施設、サービスは違ってきます。福祉も「地域分散ネットワーク型」に移行していくべきだと思います。

非正規雇用者が拡大し、国民年金の4割近くが未納や滞納になっている今、現行制度は続かないでしょう。社会保障・税一体改革というと、「消費税を上げなければならないのか」と目先の議論になりがちですが、社会全体の仕組みや変化に応じて、どうすれば先の世代まで持続可能になるか真剣に考えるべきです。

私は、社会全体をカバーできるような年金制度が必要だと思います。貧困問題もそうです。この国は社会から排除された瞬間、あらゆる制度からも不利になる。そのような人を大量に生み出し続ければ、社会保障も立ちいかなくなります。

支える側、支えられる側の垣根をなくし、多くの人が幸せに暮らせる社会へ向かって努力する。それこそが、日本に明るい未来を運ぶのではないでしょうか。

第1部:基調講演②

豊かな無縁社会へ

湯浅 誠 氏反貧困ネットワーク
事務局長
NPO法人
自立サポートセンター・
もやい理事

私の出発点はホームレス支援です。しかし今の日本はホームレスだけでは語りきれない貧困問題が渦巻いています。

今日会場には、中高年男性が多く見受けられますが、実はこの層が最も危ない。日本の「縁」の代表的なものは、家族などの「血縁」、地域の「地縁」、会社の「社縁」です。この三つがない人が「無縁」といわれます。男性は「血縁と地縁が社縁に連動する」ところがあり、会社で安定的な地位を築いた人は、家族のなかでも存在感がある。地域でもそれなりに扱われる。逆に社縁がなくなると、家でも地域でも居場所がなくなり、無縁になってしまうことが多いのです。

無縁になった男性に、「支援してあげましょう」と言ったらどうなるか。途端に寄ってきません。ではどうするか。それが絆づくり、いわゆる新しい「コミュニティー」を創造することだと思います。自分たちが淘汰(とうた)されるのではなく、受け入れられていると思える場所が必要です。

例えば"場"が作られると、食事をするところが欲しくなり、調理する人が必要になる。そこに雇用も生まれます。"場"の創造は単なる福祉の話ではないのです。いろいろな人たちを受け入れられるように変わっていくことで、社会的包摂、ソーシャルインクルージョンは作られていきます。

厚生労働省で「生活支援戦略」が検討されています。私はこれを軌道にのせられるように活動しています。しかし、多くの人が関心を持たないと手詰まりになります。ぜひ中高年の人たちにも、「それは大事なことだ」と声を上げてもらいたいのです。そうやって一つひとつを積み上げるしか、社会は変わっていかないと思います。