第2部:パネルディスカッション
絆社会実現への展望
~今こそ問われる生活支援とは~
秋山 弘子 氏東京大学高齢社会
総合研究機構特任教授
阿部 彩 氏国立社会保障・
人口問題研究所
社会保障応用分析研究部 部長
金子 勝 氏慶應義塾大学経済学部
教授
湯浅 誠 氏反貧困ネットワーク
事務局長
NPO法人
自立サポートセンター・
もやい理事
コーディネーター宮本 太郎 氏北海道大学大学院
法学研究科教授
宮本 太郎 氏
高齢社会、地域社会の課題など現状認識を。
秋山 弘子 氏
2030年には65歳以上が全人口の3割を占めると予測されています。そうなると、60歳や65歳でリタイアして支えてもらうのは無理です。これからの社会は、若い人も高齢者も男性も女性も皆で支えていくという体制が必要です。
阿部 彩 氏
高齢者も若者も役割が必要なのではないかと思います。持っている能力を発揮できる場所、役割がほしいのではないでしょうか。私は、それは仕事だと思います。若者、高齢者、女性、障がいのある方と、バリバリ働ける人はたくさんいます。それがフルに日本経済に貢献していないというのはもったいないと思います。
宮本 太郎 氏
では、絆社会に向かって行くには何が必要でしょうか。
金子 勝 氏
労働や訓練などで努力したことを評価する仕組みを、社会制度に入れていくことが必要です。そして努力した人を評価して雇用する。学歴による一括採用よりはるかに優れていると思います。そうした人々をサポートしていけば自立できます。また、地域分散で雇用が生み出せると、救われる人もたくさん出てくるのではないかと考えています。
宮本 太郎 氏
一括採用の正規ルートに乗り遅れた若者たちは、コミュニケーションが最も不得手という人たちでもあります。どういう包摂の仕方がありますか。
湯浅 誠 氏
金子さんが言われたような制度をぜひ作りたいが、これが難しい。何が難しいかといえば、実は「聞く」ことです。人の話をじっくり聞いて、何を望んでいるのか、聞くことを通して探っていくことができないとうまくいきません。結論を焦らせると人は来なくなります。「悩んでいるこの気持ちは、この人には分かってもらえないんだ」と。
聞くことはなかなか難しいことですが、ぜひ地域(活動)デビューをしてほしい。そこで苦労した経験を基に、そうしたことに関心のある議員を選んでほしいと思います。(選挙で誰を選ぶのか)それは私たちの問題です。
宮本 太郎 氏
「私たちの問題」ということで、会場にボールが投げられましたね。
阿部 彩 氏
現時点で一番の包摂の場は、雇用ということになると思います。それを変えていかないと、日本は包摂社会になりません。一方で、私自身も働きにくいと実感しています。子供が帰宅する午後6時までに帰らなければならず、(職場の)周囲から白い目で見られていると思います。また、私よりもっと大変な方は大勢おられると思います。みんなが立ち上がって「変えていきましょう」と声を上げないと解決にはならないと思います。
宮本 太郎 氏
まちづくりという観点で秋山さん、お願いします。
秋山 弘子 氏
私たちの機構では、長寿社会の街づくり、コミュニティーの社会実験をしています。絆がどれくらい強まったか、どれだけ住みやすい街になったのかなどを評価します。場所は千葉県柏市にある5000戸の公団団地で、高齢化率は40%近くなっています。
(実験の)プロジェクトの一つに「セカンドライフの就労モデル」があります。60歳そこそこでリタイアしますと、知識も経験もありますし、お元気で「何かをやりたい」と思っています。しかし、街を知らないし、名刺もない。そんな理由でなかなか出て行きにくく、家でテレビを見ているだけの生活になってしまう。これはもったいないと思います。ポイントは歩いて行けるところになるべくたくさんの仕事を、企業の協力を得てつくることです。自分で選んで仕事ができます。
また、セカンドライフの新しい働き方として、「自分で時間を決めて働く」ということも大切です。月水金は働いて、火木はゴルフとか。80歳になって体力が落ちても一週間に1日でも働いて、仲間とビールを飲むなど張りのある生活ができる環境を作りたいと思っています。
宮本 太郎 氏
それでは最後にそれぞれご意見を。
阿部 彩 氏
秋山先生が話された、自分が働ける方法で働くという雇用を広めていきたいと思いました。また、企業は労働人口が減っていくことは分かっていると思いますし、企業もそういう働き方に興味を持っていることに勇気づけられました。
秋山 弘子 氏
これまでは人生60年時代を前提にした雇用制度でしたが、今は人生90年という時代です。60歳で定年したら隠居というのは21世紀では通用しません。
また、私たちは以前より元気で長生きできるということを認識する必要があります。自分たちはもっとできるんだということを自分自身が認識することが重要と思います。
金子 勝 氏
私は「働くと健康にいい」というレベルでは多くの人は働かないのではないかと思っています。会社にいた時に持っていたミッション(使命感)、昇進への強迫観念、同期に給与で遅れたくないという金縛りのような仕組みに比べると「体にいい」というのは緩く、乗ってこない人もいるのではないでしょうか。私は新しい価値とミッションを持てた時に、新しい生き甲斐が始まるのだと思います。
秋山 弘子 氏
ひとつ補足したい。5人の高齢者がワークシェアリングをして、フルタイムの方の2、3人分の仕事をしています。1人に用事ができれば、それを補い合って仕事を回しています。そのうち1人に認知症の症状が出てきたのですが、それを上手にカバーして同じ仕事をしています。認知症の方を抱え込んでも、働き続けていくことが可能な、優しい社会になります。結局(5人は)時間をシェアするだけでなく、能力をシェアしているのだと思います。
湯浅 誠 氏
雇用という時に「給料が払われる仕事じゃないと意味がない」と考えないでほしいと思います。例えば、おばあちゃんたちの居場所をつくり、そこでおばあちゃんたちがシングルマザーの子供さんの面倒をみてくれるようになった。そして、シングルマザーは働きに行けるようになった。このおばあちゃんたちは社会の中で富を生み出していることになります。日本のGDP(国民総生産)470兆円は、そういう人たちもかかわっています。私は「隠れた稼ぎ頭」と呼んでいます。
私の兄は障がい者ですが、兄が働く場があるということは、母親に日中自由な時間が生まれて社会活動ができるということです。一日中母と兄が家の中にいたら2人とも具合が悪くなって、私がなんとかしないといけなくなる。つまり兄が働く、社会参加の場をつくってくれている人は、私も支えてくれていることになります。
こういうことが社会であって、そのつながりを見ようと思えば見えます。見ないと思ったらないことになりますが、それを見ようという視点をどれだけ多くの人が持つか、それが大事なのではないかと思います。
【基調講演】出典:朝日新聞
【パネルディスカッション】出典:毎日新聞
こちらもぜひご覧ください。