第1部:基調講演
世界の構造転換と日本の進路
~新たなる世界観を求めて~
寺島 実郎 氏日本総合研究所理事長
多摩大学学長
三井物産戦略研究所会長
阪神・淡路大震災から20年たち、日本と世界がどう変わったのかについて、話したいと思います。
まず、勤労者世帯可処分所得です。日本は2000年の47万3000円がピークで、13年は42万6000円。貧困化が進んでいる。家計消費の構造も変わり、自動車関係費、医療費、通信費は増えているのに対し、小遣い、交際費、外食などが減っている。書籍費も減っている。日本人はアクティブでなくなり、教育だとか教養に金が回らなくなった。それが内向きの日本ということに影響している。
一方で、もはや日本がアジアの先頭ではないという現実がある。13年の一人当たりGDP(国内総生産)は日本が3万8500ドル。シンガポールは5万5000ドル。今では、一人当たりGDPは、シンガポールと2万ドル以上の差がある。香港にも抜かれた。エネルギーを輸出するブルネイ、次いで日本は弟4位。アジアのダイナミズムに突き上げられるような構造の中に日本は存在している。
貿易の構造も変化している。対米貿易の比重は減少し、中国、香港、台湾、シンガポールというグレートチャイナとの貿易で日本は飯を食っている。
1990年に冷戦が終わり、ソ連が崩壊し、米国の一極支配といわれた。しかし今、米国の一極支配という世界観で世界をとらえている人はいない。米国は世界のリーダーとしての役割を後退させた。大きな変化は、中国の台頭。1995年のGDPは世界8位だったが、2010年に日本を抜いて弟2位になった。もう一つは、ロシアの蘇り。エネルギー価格の高腰が要因だ。今そのエネルギー価格が崩れているので、ロシアは大変な事態に直面し始めている。
米国の一極支配といわれた後、世界は多極化してきているといわれた。しかし、今は極という構造で世界を説明するのは無理。多極化から全員参加型秩序と言っていいような無極化という構造の中に、世界は向かっていると認識せざるを得ない。
東日本大震災と阪神・淡路大震災の大きな違いを考えるキーワードは、携帯電話とコンビニ。携帯電話が象徴しているのはIT革命の進行だ。そもそもインターネットは、米国の国防総省が作った技術で、冷戦を生き延びるためだった。冷戦が終わったことによって民生転換された。携帯でネットにつながる世界の中で、情報技術は全く新しいステージに入ろうとしている。それが次世代ICT(情報通信技術)革命。ビッグデータの時代というのはそういう意味です。携帯という言葉に象徴される技術面での新しい段階は、防災への対応にまで大きな意味を持ってくる。
もう一つのキーワードはコンビニ。コンビニは4万5千軒に迫るというくらい全国に普及していて、津々浦々にコンビニのネットワークがある。大震災が起きた時、政府や公共機関の炊き出しシステムは重要だけれども、コンビニが機能している、おにぎりやお弁当がデリバリーされているという仕阻みが機能していれば、その方が生活基盤としては重要だということになってきた。世の中の流れが変わっている。
大震災から20年。日本の社会構造、世界の構造がどう変わったのかを認識し、次世代ICT革命という入口の所に立っていることを視界に置きながら、今後の安心安全社会というものに向き合っていかないといけない。セキュリティの問題も非常に大きく横たわっているが、技術要素をしっかり組み入れた世界観というものが問われてくる時代になるだろうと思う。