被災者生活再建支援法の成果と残された課題


ー 「被災者生活再建支援法」によって達成できたこと、また課題として残っていることとは

室﨑氏:被災者生活再建支援法の論点は、住宅が個人の資産であることでした。個人の資産である住宅に、税金は使えないというのが国の見解でした。国としてできる支援は、家具が壊れてしまった、炊飯器がないといった、そういう生活に対する支援だけということでした。しかし、実際に阪神・淡路で被災された方の訴えは、「生きる場所がなくなるから、住宅になんとか支援してほしい」ということでした。もう一方の見方としては、家が次々に建つことで、まち並みやコミュニティが早く元気になる効果もあるということです。そういう意味で個人の住宅も公共性を持つのだ、行政がしっかりとお金を出すべきだということも言える訳です。国の支援金が住宅に出されたことは、全労済や連合、日生協、兵庫県が中心となった2,500万人の署名が世論を大きく動かし、風穴を開けたということだと思います。


神津:個人への支援であっても、場合によっては公共につながるということですよね。今、新型コロナ感染症の問題で、いろいろな支援策があります。だけど何かしっくりこないのは、場当たり的に対応しているように映るからではないでしょうか。社会に必要なことなのですから、もっと包括的にできないものでしょうか。そのマインドといいますか哲学みたいなものが、まだ我が国には根づいていないところがあると思います。

先ほど先生が課題だとおっしゃっていた仕事の問題については、どうやってセーフティネットを張っていくかということにつながると思います。日本全体では人手を必要とするところが随所に見られます。生活保障をしながら再就職のマッチングをする仕組みがまだ日本にはできていないですから、これを機会につくらないといけないと思いますね。


室﨑氏:仕事は生活の糧として大事ですけど、それ以上に生きがいなんです。いろんな能力や特質を社会に生かせる喜びみたいなものがあって、みんな仕事をしている。だからその人がいきいきと社会参加できるようなものをつくって初めて、経済の問題も解決できる。お金を受け取ったらじっとしておけ、ということじゃないと思うんですよね。



ー 被災者に寄り添う総合的な支援である「災害ケースマネジメント」とは

室﨑氏:被災状況は一人ひとり違うので、個別性に即して対策を考えていかないといけません。例えば「からだの具合が悪い」というのも、背景には住宅が確保できていないとか、家族間のコミュニケーションがとれていないとか、いろいろな社会的な問題が関わっていることがあるんです。極めて総合的で、お医者さんだけ、看護師さんだけでも解決しないし、場合によっては弁護士さん、建築家も関わらないといけない。きっと共済団体や保険会社の方も関わらないといけないと思います。ケースマネジメントでは一人ひとりに目を向けるということと、みんなで力を合わせて支えるということ、その2つのポイントがあると思います。


神津:体のツボと似ていますね。あるツボを押すと血の巡りがよくなる、ツボの位置と離れたところの内臓がよくなると、全部がつながっているんだと感じます。社会も同じですよね。何かをよくしようと思ったら、その背景にあるツボを見つけて押さないと血が巡って良くならない。


室﨑氏:体が悪くて夜眠れないという方に、お医者さんがあれこれ診断するのだけど、いろいろな目で見ると実はその人には友達がいないとわかって、誰かと一緒にハイキングに行った途端に元気になったりするんですよね。ですから全体を見るような仕組みがないと、ツボも見つからない。


神津:そうですね。コミュニティなどのつながりが普段からあれば、ツボも容易に探せるのでしょうね。



ー 法律や制度づくりをとおして感じた、国が果たすべき役割や支援とは

室﨑氏:いつも我々が言っているのは、与えるだけの支援ではだめだということです。被災者本人が自分で解決する力を引き出すような支援である必要があります。被災者生活再建支援法でも、本人が家を自力で再建しようとする背中を、支援金というお金で後押しするということだろうと思います。自助、共助と公助がうまくバランスをとり、1つの力になる仕組みの支援制度がいると思うんですよね。


神津:公共としてまずは土台をつくる。だけどより力あるものにしていくには、個人が、一人ひとりが力を発揮しないといけない。その繰り返しがすごく大事なことだなと思いました。


室﨑氏:例えば阪神・淡路の住宅再建で必要とされた1,500万円も、全部国が出すのは違うという話です。1,500万円のうち、国が500万円出したら、個人も損害保険を含めて頑張って500万円つくる。あとの500万円は義援金などみんなが少しずつ支え合う共助・互助で用意して再建できるようにする。そのときもいろいろな議論がありましたが、やっぱり全てを国に求めるのではなく、自分たちでできることはやるし、足りないところはみんなで支えていこうという意識だったんですよね。特に共済は、義援金の前払いみたいなものではないかと思います。みんなで助け合う共済と一般の保険、国の資金の3つが足し合わせる世界が、1つの理想形だと思います。