被災地における雇用状況

宮本 太郎 氏

北海道大学大学院法学研究科教授

―東日本大震災から1年余り経過しましたが、現在の被災地の現状、また昨年の震災後、先生も現地に入られた当時と比べ、大きく変わったと感じるのはどのような点でしょう?

つい先日も宮城を中心に、聞き取りを行い雇用状況を調べてきましたが、震災の打撃や、それによる人々の苦しみが見えにくくなっているのかと思います。

ご存じのように、2011年度の第3次までの補正予算と2012年度予算をとおして震災復興のために18兆円ぐらいが投入されているわけですが、その結果、土木工事を中心に被災地では表面上、景気はよくなってきています。大規模小売店舗などでは売上高が5%ぐらい上昇しているという傾向もあります。宮城県の有効求人倍率を見ると、特に仙台市の場合、昨年の11月、12月あたりの有効求職者数と有効求人者数では、求人数のほうが凌駕している傾向が見えているわけです。しかし、この好景気によって被災地の人たちの苦しみが軽減され、希望の灯がともったのかというと、決してそうではないと思います。

よく指摘されていることですが、有効求人倍率が上昇しているのは、いわゆる土建国家的な暫定的な効果であり、がれき処理が3年間、電源や道路、住宅を含めても5年程度しかもたないわけです。かねてから指摘されていた土建国家的な仕組みにかえて、高齢化の中で持続可能な地域社会をつくっていくような雇用の仕組みが、いま復興のプロセスの中で準備されているかというと、どうもそうではないらしいということです。

有効求人倍率が上昇していますが、中身を見てみると、いま土木・建設の分野は有効求人倍率が2.9倍です。保安・警備も復興のプロセスで大きな仕事になっているのですが、実に10.98倍になっています。要するに人手が足りないわけです。これに対し、事務の分野は0.37倍、あるいは製造業は0.61倍という状況です。

これは、単に就きたい仕事がないというだけではありません。例えば、沿岸地域で水産加工業が大きな打撃を被りましたが、そこで働いていた女性は同じ仕事に就きたい、また同じ仲間と働きたいという強い希望を持っているわけです。したがって、彼女たちはみんなグループになって職探しをやっているそうです。そもそもそうした希望、期待にどこまで応えられるかということは別にして、長期的に自分の人生設計を立てていく、仲間との関係を維持し発達させていくことがなかなかできないでいる問題があります。

さらに言えば、浪江町など警戒区域に入っていて退去を余儀なくされた人たちは、仮設住宅などで失業手当の給付期限が切れてきているわけです。にもかかわらず、給付期間が切れた人たちの2割ぐらいの人たちが、いま求職活動をしないでいます。これは、よく考えてみれば無理のないところもあります。これからの自分の人生をどこで設計していったらいいのか、どこに働く場を見いだしていったらいいのか、先が見えない中で求職活動をしろと言っても無理があるところがあり、結局のところ、東電からの賠償金で何とかつないでいる状況です。