雇用政策の現状

―今回の震災により、雇用が失われ、政府としてもさまざまな手当てをしています。特に、雇用保険の基本手当の受給に関してはさまざまな延長給付の仕組みなども活用しながら、被災地の方々の雇用の確保、あるいは再就職に向けた支援をされていますが、現在の被災地における雇用の状況、また課題は何ですか?

まさに、雇用問題こそが被災地復興のカギと言えます。新しい雇用を獲得するまでの間、失業手当の給付延長措置が取られてきました。何度か給付延長が行われ、さらに去年の10月1日には最後に90日間の特例的な延長である広域延長給付が行われました。この広域延長給付の受給者は約1万1,300人いますが、この4月にこの給付の打ち切りが始まっているわけです。4月20日までに打ち切りが決まった人は9,600人で、ほとんどの人の給付打ち切りが決まっています。

この人たちがスムーズに新しい仕事を見つけているのならいいのですが、そのうち就職が決まった人を見てみると、岩手で41%、宮城で24%、福島になると13%にしかすぎないわけです。そうした意味では、この給付の延長の期限切れのときがもう1つ、生活危機の見えない波が押し寄せるときだとかつて申し上げたことがあるのですが、残念なことに今それが現実化しつつあると言っていいのではないでしょうか。

ただ、注目できる新たな取り組みもあります。2011年度予算の第3次補正の中で、もう少し長期的に定着する仕事をつくっていく雇用創出をしていこうということで、「事業復興型雇用創出事業」が開始されました。これは第3次補正に組み込まれ、いま執行されているわけです。これは、長期的に見てその地域にとって大切であると認定された事業における雇用創出を図ろうとするものです。

いかなる事業が重要であるかとされるかと言えば、グローバル経済の観点から成長が期待できる製造業や、農林水産業に第2次産業や第3次産業の要素を加え、長期的に地域に定着していく、いわゆる第6次産業などで、当面はこれまで様々な政策的支援の対象となってきた事業です。このように重要性が認められた事業の分野で雇用を拡大した事業者に対し、その賃金コストを3年間にわたり一部補助するという事業です。

これは確かに一時しのぎ的な雇用創出とは質的に異なる事業であると言ってよく、その展開が注目されるわけですが、大事な課題として浮上するのは、地域が大事な事業を認定していくプロセス。そうした地域でのネットワーク、イニシアチブがどのように生かされているかということです。

これまで補助の対象だった事業は確かに大事な事業なので、これを生かしながらも、それに加えて新しい補助の対象をつくっていかなければいけないわけです。事業復興型の雇用創出事業自体、そのネットワークがなかなかうまく出来上がっていない、あるいは組み込まれていないところがあります。

雇用政策は労働局を中心に国の事業だという印象が強かったのですが、2000年に改正された雇用対策法では、雇用政策は自治体の仕事でもあるとはっきり書き込まれており、そうしたネットワークづくりが大切になっています。国も地域の事業の受け皿として協議会などをつくることを呼びかけるようになっています。たとえば、最近では各都道府県で「『日本はひとつ』しごと協議会」をつくることが提起されました。しかしこうした協議会が地域の雇用を創出し、また技能形成をすすめ、就労支援をするネットワークとして定着、発展しているかというと、必ずしもうまくいっていないと思います。

地域では、それとは別にどのように地域の雇用をつくっていくかという協議が重ねられているし、ネットワークができているところも少なくありません。例えば、宮城県には地方振興事務所が7カ所あり、県庁で話を伺う限りでは、これが地域に根差した雇用をつくっていく話し合いの場になっているのです。しかし、こうした現実の地域のネットワークと国が呼び掛けている協議会会議がずれていて、なかなかかみ合わないでいる。地域が雇用をつくっていくイニシアチブと、国の緊急雇用創出事業の歯車がかみ合わないでいる面があります。この辺りが、この種の雇用創出事業の大きな課題ではないかと思っています。