子ども・現役世代・高齢者それぞれのリスクと展望

第2部:パネルディスカッション

3. 第2ステージ:若者支援を含めた藤里町の実践


渡辺 真理 氏

湯浅さんから第1ステージである子どもの時期についてお話していただきました。続いて第2ステージ、教育から就労への移行を含めた若者の時期について、菊池さん、若者世代の生活支援などについても話していただけますでしょうか。

菊池 まゆみ 氏

秋田県藤里町の菊池と申します。私は現場の立場からお話しさせていただきます。

藤里町は、人口が3,500人を切ってしまい、高齢化率は45%を超えました。その中で私は、3年前から「町民すべてが生涯現役を目指せるまちづくり」というものに挑戦しています。3年前に地方創生が騒がれていましたが、私たちには地方創生事業はあまり関係がなく、社会福祉協議会が関わるような弱者と言われる人たちは、その恩恵を受ける人と言われているような気がしました。しかし、弱者と言われている人たちは恩恵を受けるだけではなく、担い手にならなければなりません。そこで、福祉の立場からの地方創生があってもいいのではないかと考え、参入しました。

私の原点をお話しします。秋田県では「一人の不幸も見逃さない運動」というのが昭和55年から始まっています。私が入職したときは、この運動はすごい取り組みだと思いました。しかし実際には、一人暮らし老人の対策事業だったのです。これについては、なぜ一人暮らし老人なのか、地域で困っている人や不幸な人は一人暮らし老人なのかと今も疑問です。

支援される人とする人を地域の中で分けてしまうと、逆に地域を壊してしまうような気がしていました。本当は、支援する人とされる人という区切りは一時的なものであって、地域で暮らしながら支える場合は違うのではないかと思っていました。そこで平成14年に事務局長になったとき、支える側・支えられる側を違ったかたちにするため、藤里町トータルケア推進事業というものに参入しました。それは、一人暮らし高齢者や身体障がい者などの福祉のニーズをもつ方々は、支援されっ放しの人ではなく、サポートする側にも回れる人たちという考え方でいろいろなことを始めました。

一人暮らしの方は、たしかに不便さはあるけれど、自分の時間は自分のために使えるので、地域のために頑張りたいと思ったら活動時間をつくれるのです。身体障がい者の方も、左腕がなくても右腕だけでできる活動はいっぱいあります。どのような方でも、地域の活動をしたいと思ったらそこを支援するのが社協だという思いで頑張りました。

渡辺 真理 氏

障がい者の方や高齢者の方は1日中家にいらっしゃる。だから支援されるだけではなくて、サポートする側に回ることもできるということですが、具体的にはどのようなサポートなのでしょうか。

菊池 まゆみ 氏

例えば介護予防事業で、ある日は参加者でも、特技がいっぱいある方は、別の日は講師になったりします。今日は講師、今日は参加者というように、いつでもいろいろなかたちで参加できるようにしています。ひきこもり支援に関しても、ひきこもっていた人が家から出てきてもまだ就職できないという場合は、地域のための活動で支援する側に回る、という観点から始めました。

渡辺 真理 氏

「ひきこもり支援」と聞くと大変なイメージがあるかと思いますが、菊池さんの場合、訪問された家に若い方がいらして声をかけてみたら普通の若者だったことがきっかけとしてあったと伺いました。

菊池 まゆみ 氏

私はケアマネジャーもやっていたので、お家を訪問していました。すると、家に若い方がいらっしゃるわけです。何をしているのか聞くと、「仕事がないから」と答えるのです。最初はひきこもりだと思っておらず「ずっと家にいたら引きこもるよ」と言ってしまったんです。

渡辺 真理 氏

でも、そういう小さな会話自体、その若者にはなかなかなかったわけですよね。

菊池 まゆみ 氏

そうです。外からの情報や会話はほとんどない状態だったと思います。

図2
2005年度よりトータルケアとしていろいろなことを始めました。「福祉で町づくり」を合い言葉に、図2の(1)から(4)までが秋田県社協のモデル地区として重点項目にされました。でも、これだけでは町は元気になりませんでした。 そこで(5)の「次世代の担い手づくり」というのを藤里社協と町の重点目標として定めました。

今の若い人たちは、一度普通のラインから外れてしまうと、普通のラインに戻れないと思い込んでいるような気がしたので、少しでもあと押しできるような支援ができればという思いから企画しましたが、このときは「福祉なのだから対象者を明確にしなさい」と怒られました。対象者がいなければ福祉ではないのです。 そこで、かなり苦し紛れに「ひきこもり者及び長期不就労者及び在宅障害者等支援事業」ということで始めました。だから、ひきこもりだけをやっているというのとは少し違うことを一生懸命アピールしています。

2010年4月に「こみっと」という福祉の拠点を開設しました。ここは、お食事処や会議室、相談室や調理室などが入った、地域の方々に気軽に使っていただける会館になっています。 私は、ここで特殊なことをやったわけではありません。ひきこもり問題に着手したつもりもありませんでした。最初に、「こみっと」というものをオープンしていろいろな事業をやるから、情報を届けに訪問してもいいですかということで、若者に情報を届けたいという気持ちで歩き回りました。そうしたら、113人の方が情報をほしいと言ってくれました。それは何かの支援が必要な人の割合だったのかなと今でも思っています。

「こみっと」が他と違うのは、老人クラブ、ボランティアなどいろいろな団体が登録して、地域の方々が出入りする場所だったということです。また、予算がなかったので、ハローワーク経由でヘルパー養成研修の求職者支援事業を始めたのですが、3ヵ月コースしか認めてもらえなくなり、時間がもう少しほしいということで「職業体験プログラム」というコースを勝手につくりました。これは、地域のおじちゃん、おばちゃんを講師にお迎えして、こういう仕事もあるということを体験してもらうコースです。すると、「こみっと」の支援を受けたいという若者は少なかったのに、一般の方も一緒に受ける求職者支援事業だったら受けてもいいと言う若者が圧倒的に多くなりました。これには驚きました。 初年度に求職者支援事業を15人受けた中で、私たちが家庭訪問したときの情報から受講に至った方が7人いて、彼らは6ヵ月後には就職しました。髭がのび放題だった若者が、髭も剃り髪も切り、昼夜逆転も直り、就職したのです。

2人残りましたが、能力ではなく履歴書に問題があるためでした。学歴はあるけれど、勤めた期間は約半年で、その後30年引きこもっていた人、あるいは、中学から引きこもっていたから職歴はゼロで、気がついたら30歳を過ぎていた人。こういう方は採用面接を受けさせてもらえるところ自体がありませんでした。 活動が2年目、3年目になると、訪問してもいいと了解いただいても、実際に行くと会ってくださらない方も出てくるようになりました。でも、1度も会ってくださらない方が電話をくれるようになったりもしました。電話では「あんたたちはしつこいから、1度ぐらいなら受けてやってもいいよ」と言うのですが、最終的には卒業していかれました。

これは、一般の受講生たちと一緒に、いろいろなものを自分で見つけていった結果です。その中で、特におばさんがいい味を出していたと思います。おばさんは同じ受講生なので遠慮がなく、「若いんだからあんたが発表しなさいよ」「ちゃんと髭を剃りなさいよ」と言うのです。 職員が何かをしたのではなく、こういった環境の中で皆さんは勝手に独立していったという印象です。

113人の方々がその後どうなったのか、5年後の2014年度末に追跡調査しました。そうしたら、ほとんどの方が自立しており、25人の方が残っていました。今は10人足らずだと思います。

それから、私たちは2014年度の1年間に、延べ1 6 6 人の方々を訪問しています。印象的だったのは、あるお母様から「来週、息子の高校の卒業式がある。友達はみんな就職したり進学が決まったが、うちの息子だけが就職も進学も決まっておらず、朝から晩までゲームをして昼夜逆転になってしまっている。卒業式を迎えたらどうしたらいいかわからない。

とりあえず『こみっと』に連れていっていいか」とお電話がありました。受け入れは制度的に難しかったので、まずはボランティアのかたちで受け入れました。すると、彼は2、3ヵ月で就職を決めました。制度的に正しいやり方として、その方がひきこもりになるのを待ってから支援すべきだったのだろうか、あるいは、「こみっと」がなかったら、その方はどうなったのだろうか、と考えました。

日本ではどこかに所属しているのが当たり前で、所属していない、職場も学校もない人は、たちまち情報が来なくなります。私たち社協では、所属を「不明」にしている方が31人いらっしゃいました。どこに括ればいいかわからないためです。しかし、現に仕事をしている人も入っています。「1年更新の契約だったけれど、次の契約はないと思ってくれと言われている」「ずっと無職だったが3ヵ月あいただけ、たまたま今いい職に就けているけれど」という方々などです。そういう方々は、私たちの訪問が切実にほしかったとおっしゃいます。そういうことを考えると、ひきこもりかどうかをカテゴライズしながら活動する仕組みそのものに疑問を持ちながら今日に至っています。

私たちも、何が成功に繋がったのかあまりわかっていないのです。福祉の支援ではなく、地域の人たちと交流しながら独立していった、自立していったという印象です。「こみっと」に出てきた時点で、地域の老人クラブ、ボランティアなど、誰かがいるわけです。治療としてのサークル活動だと、その中で自分を認めてもらおうとする動きに入ってしまいますが、そうではなくて、例えば毎日出入りしている老人クラブの方がコピー機を使えないで困っているのを見て、「やりますよ」と声をかける。そうすると「お前、すごいな」とほめられる。ボランティアから「最初はひどかったけれど上手になったね」とほめられる。そのように、外で認められる機会があったというのが特徴なのかなと思っています。

宮本 太郎 氏

藤里町の取り組みは、とてもすごいなと思っていました。みんなが弱者になっていく時代だからこそ、みんなを元気にしなければいけない。これまでは、困難の度合いの高い人を選び出して、抽出して、守ってきました。ところが、なるべく早いうちにみんなを元気にしなければいけません。特に若者はそうですよね。先ほど子どもの問題は縦割りで大変だと言ったけれど、藤里町では「こみっと」という包括的な支援の仕組みをつくってしまったということです。まずそこをクリアしたうえで、次は若者を元気にしました。それは、閉じた空間の中で認められるのではなくて、もっといろいろなところで承認されていくということです。あるいは、ひきこもりで町おこしみたいなこともおっしゃっていましたが、これまでの福祉のイメージを根本的に壊すような大転換がそこでなされているのではないかという気がします。

渡辺 真理 氏

菊池さん、若者を元気にする秘訣のようなものはあるのでしょうか。

菊池 まゆみ 氏

それこそ宮本先生のおっしゃる「共生保障」などの考え方のほうが近いのではないかと思っています。私どもが解釈したのは、福祉というのが救済とか貧困から救うことから始まったものだとすれば、床からテーブルまで引き上げてやるというのが福祉だった気がします。でも、若者支援を始めたら、若者は「普通の暮らしがしたかった」というわけです。「普通に結婚できるような収入がほしい」、「他人にバカにされない仕事に就きたい」という、当たり前のことだったのです。だから、福祉は終わりにしようと言いました。違うほうに目を向けなければ、もしかしたら支援を受けたいと来る人そのものもいなかったのではないか、と考えています。



4. 第3ステージ:高齢単身世帯の貧困と孤立


渡辺 真理 氏

リスクの集中する三つのライフステージのうち子どもの時期、若者の時期について教えていただきました。最後に藤森さんより高齢者の生活の現状、そして支援のあり方についてお聞かせいただけますか。

藤森 克彦

みずほ情報総研という民間のシンクタンクに勤め、2017年4月に日本福祉大学に転職しました。ただし、みずほ情報総研にも週1回勤務しており、兼務となっております。これから「単身世帯の困窮と孤立」というテーマで、高齢期を中心にお話したいと思います。私は社会保障制度を研究していますが、日本の特徴は、貧困や孤立や要介護などの生活上のリスクに対して家族が大きな役割を果たしてきたことだと考えています。 しかし、今、家族が大きく変わってきて、これまでのような役割を果たすことが難しくなっています。単身世帯の増加は、その象徴だと思います。単身世帯は必ずしも家族がいないわけではないですが、同居家族はいないので、世帯の力は弱くなっています。そこで、高齢単身世帯の視点から新しい支え合いをどのように築くかが大きな課題になっていることを、お話したいと思います。

まずは貧困の問題です。2012年の貧困ラインは約122万円でした。 65歳以上の高齢者の中で122万円以下で暮らす人の割合を見ると、高齢男性全体の貧困率は15%なのに対し、高齢単身(一人暮らし)男性の貧困率は29%です。一方、高齢女性の貧困率は22%に対し、高齢単身女性では44.6%です。このように、高齢者全体の貧困率に対して単身世帯は約2倍の高い水準になっており、どの世帯類型よりも高い水準です。

では、なぜ一人暮らしの貧困率はこれほど高いのでしょうか。その原因の一つ目は、国民年金(基礎年金)のみの受給者が多いことです。つまり、高齢単身世帯は、現役時代に、自営業や非正規労働に従事したり、無職だった方が多いことが推察されます。 二つ目は、厚生年金をもらっていても、低所得が多いことです。特に高齢単身女性においてこの比率が高く、男女の賃金格差が大きいことや就労期間が短いことが要因だと思います。三つ目は、高齢単身世帯では無年金者の比率が、夫婦のみ世帯に比べて高くなっています。特に高齢単身男性の1割が無年金者です。なお、現役時代に無職・非正規・自営業の期間が中心であっても、正社員の配偶者がいれば世帯全体では厚生年金を受け取れるので貧困に陥らない方が多いと思います。言い換えれば、未婚や離別といった「配偶関係」と、無職・非正規・自営業といった「働き方」が組み合わさると高齢期に貧困のリスクが高まると考えられます。

次に孤立の状況を見ていきたいと思います。これは特に男性の問題になります。高齢の単身男性の会話頻度をみると、2週間に1度以下しか会話をしていない人が、6人に1人もいます。

それから、同じ高齢単身世帯でも、子どもの有無、所得階層の高低によって孤立状況に違いがあります。特に子どものいない中所得層や低所得層の高齢単身世帯で、「頼る人がいない」「ほっとする相手がいない」という方が約4割いて、高い水準です。高齢期の単身世帯の孤立には、子どもの有無や所得水準がともに影響していると思います。

今後はどうなっていくのでしょうか。 単身世帯を最も多く抱える年齢階層をみると、2015年は20代でした。しかし、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、2030年になると、80歳以上が単身世帯を最も多く抱える年齢階層になります。つまり、今後は少子化の影響を受けて20代の単身世帯は減り、反対に高齢の単身世帯が増えていきます。また、高齢単身世帯はただ増えるだけではなく、質的な変化も伴い、高齢単身世帯の中で未婚者の比率が高まっていきます。

例えば、「国勢調査」では、70代の単身男性の未婚率は85年は5.3%でしたが、2015年には25.2%になりました。つまり、現在では、70代の一人暮らし男性の4人に1人は未婚者です。同じ一人暮らし高齢者でも、配偶者と死別した一人暮らしと、未婚の一人暮らしは大きな違いがあります。それは、未婚の一人暮らし高齢者は、配偶者がいないだけではなくて、子どももいないことが考えられますので、老後を家族に頼ることが一層難しくなっていくだろうと思います。

また、今後をみても、現在、中年未婚者が増加していますので、未婚の一人暮らし高齢者が増加していくと思います。1995年から2015年にかけて、40代と50代の人口は少子化の影響で1割弱程度減っていますが、40代と50代の未婚者は、男女とも2倍程度増えています。特に、中年未婚者の中でも親と同居する未婚者は、3倍に増加しています。そして、私が以前行った調査では、40代、50代の中年未婚者の所得をみると、本人年収100万円未満の人が3割弱いて、特に親などと同居する未婚者でその比率が高くなっていました。

中年未婚者は、親と同居することによって生計を維持する方が多いことが推察されます。親が亡くなった後の生活が厳しくなり、高齢期の貧困が懸念されます。

図
これらの課題として、二つの点が重要だと思います。

第一に、社会保障の機能を強化していくことです。日本の高齢化率はOECD33ヵ国のうちでトップですが、高い高齢化率のわりに社会保障に資金を投入していません。以前は家族の支え合いや、企業の長期雇用保障が効いていたので社会保障に向ける資金は低い水準ですみましたが、一人暮らしが増加するなど社会構造が変化する中では、社会保障給付を増やすことが必要だと思います。そして、社会保障の機能強化の財源を確保するには、税金や社会保険料の引き上げが必要です。

特に、介護保険は強化していく必要があると思います。いま要介護者を抱える世帯の7割は、「主たる介護者」は家族だと答えています。しかし、同居家族のいない単身世帯が増えていきますので、今後は事業者による介護サービスへの需要が高まると思います。

一方、生産年齢人口が、2015年から2030年にかけて年平均で約57万人減っていくとみられています。それに対して、介護職員は2013年度から2025年度にかけて年平均7万人増やしていかなければいけないと推計されています。生産年齢人口が減る中で介護職員を増やすには、介護職員に対する処遇改善等をしていく必要があります。それから、非正規労働者などに向けた住宅費や教育費に対する公的支援の強化なども必要だと思います。

介護保険の強化については、若者の賃金が伸びない中で高齢者向けのサービスを増やすのはどうかという見方もあります。しかし、介護は高齢者のためだけのサービスではありません。もし介護保険を縮小したら、要介護となった親を抱えた人は家族介護を行わざるを得ないので、現役世代にも影響するのです。いま年間10万人の介護離職者が出ていますが、介護保険を切り詰めれば、介護離職者が一層増えるでしょう。人手不足が深刻になる中で、さらに介護離職者が出てしまうのは、経済にとってもマイナスではないでしょうか。

二つ目は働き続けられる社会です。育児期、親の介護をする介護期、高齢期を通して、これまでのように長時間労働も厭わないという働き方は一層難しくなっていくと思います。男女に関わらず、誰もが親の介護や育児など、某かを抱えながら働くようになるので、多様な働き方が必要になると思います。その中で、所得保障を代替型から補充型に変えていく必要もあるのではないかと思いました。

例えば、健康で就労意欲をもつ高齢者が、年金の受給開始年齢を65歳よりも遅らせることによって割増年金がもらえる繰下げ受給の活用は今後重要になると思います。一方、繰下げ受給を使いやすい制度にすることも必要です。現行の繰下げ受給は「年金を受給するか、しないか」の二者択一ですが、年金の一部を65歳からもらいながら、残りの年金受給を遅らせて割増年金を受け取れるような制度に改正されれば、繰下げ受給を利用して高齢期に働き続ける人が増えてくるのではないかと思っています。