ダイナミックな農業再生を目指して

―岩沼市というのは成長力が高く、農業をはじめ、仙台空港などインフラが整備されていて、そこに産業も集積しつつあったと思います。今回、大変な津波、地震で被害を受けて雇用確保や産業再生といった課題もあると思います。一方で、太陽光発電など再生可能エネルギーの開発にも熱心に取り組んでいらっしゃると伺っています。それらを含め、産業の復興に向けてどのように取り組んでいらっしゃいますか。

今回の被災地は長期的に人口減少、高齢化が進んでいる地域です。津波の前の5年間の人口動態を見ると、被災地で増えているのは仙台都市圏だけ。つまり、仙台市を中心にだいたい30キロ圏です。あとは福島の原発があった大熊町と楢葉町しか増えていない。岩沼はその中に入っていて、東北全体に人口減少が進んでいる中、仙台都市圏はまだ成長する基盤があります。岩沼に関しても仙台空港があり、臨空の工業団地があります。

グランドデザインの中では七つの柱を立てました。その中に新しい雇用の創出がありますが、たまたま市長さんが、健康で幸せな都市をということで医療・福祉に重点を置いていらっしゃる。そこで医療・福祉関係の産業を誘致して復興の新しい兆しにできないかというので、元学術会議会長の金澤一郎先生、それから東京大学元総長の小宮山宏先生、エネルギーに関しては北澤宏一先生という再生可能エネルギーの第一人者、そういった方々を集めて委員会をつくりました。構想を出しているので、これをどのように着地させていくかがこれからの課題です。

産業に関しては、かなり動いているのが農業です。農業の規模拡大ということが安倍政権の大きな柱になっていますが、それがいちばんダイナミックに動いています。なぜかというと、津波で壊滅したので、ほ場整備が行われることになっているからです。1町歩を単位として、今まで耕地整備されていないところを整備して、農業の大規模化、6次産業化、これがいま動いています。ですから、この地域は農業の新しい動きのトップランナーだろうと思います。被害のないところでは必然性が薄いのですが、ここではやらなければいけない。いま申し上げたような農業・農地の再編、大規模化、6次産業化は、他の被災地でそのお手本にしていただくという意味で、何周も遅れたトップランナーではないかと思っています。

―農業を産業として育成する時によく議論になるのが、株式会社の参入とか、農地法の一層の規制緩和です。その辺りの課題について、先生はどのようにお考えになっていますか。

株式会社といっても、全然関係のない東京の商社の方とかそういった方が入ってきたとしても、農業に関しては難しいと思います。株式会社できちんと法人化してやっていくのはとてもいいことだと思っていますが、やはり地域の中堅あるいは若い方々が今までの資産を受け継ぐような形で立ち上げることができれば、それがいちばんいいと思います。

今この地域がどうなっているかというと、ご承知のとおり全部流されてしまいましたので、50代、60代ぐらいの方はいまさら農機具を買ってというつもりはないわけです。投入した資金を回収することは困難であり、一生お金を借りて終わるということになってしまいます。ですから、30代、40代ぐらいの方がこういった株式会社を立ち上げる。行政のほうもその辺りのことはよくわかっていて、集落ごとに代表者を出し、まとめ役がプランを考えているというのが現在の岩沼市の状況です。

やってくれるという地域の方にお願いするわけですが、所有権は先祖代々のものですから、所有権ではなく耕作権というものを委任して、その方が株式会社を立ち上げる。それで国のほ場整備、あるいは津波の災害復旧の資金援助を受けながら大規模経営に転換していく。そういう意味では非常に実験的なものがいま動いています。ですから、農業はおもしろいですよ。ダイナミックです。