いぐねのあるまちづくり

─先生は2008年に、『みどりの学術賞』を受賞されました。都市公園のあり方をめぐる斬新な発想がよかったという審査員のコメントも拝見しましたが、玉浦西地区のまちづくりの中で、公園や人々の集まるスペース、「社会的共通資本」とも関係するのでしょうけれど、そのありようをめぐって先生のお考えを教えていただけますか。

↑玉浦西地区のまちづくりイメージ模型

これはとても大事です。1軒1軒の家があってもコミュニティにはならないわけで、コミュニティの共有財産は公園であったり、そのほかいろいろです。この地域を見ると、集落の周りに、それぞれの家に「居久根(いぐね)」というのがあります。私はこのいぐねがこの農村の社会的共通資本のわかりやすい例だと思ったのです。

いぐねというのは東北地方に特有の農家の屋敷林です。日本全国、例えば砺波平野とか、山村の屋敷林とか、どこでもあるのですが、東北地方は屋敷林のことをいぐねと呼びます。

文献をひもとくと江戸時代からあり、北西の季節風、海風を防ぐという防風的な話と、家を建て替える時の用材、材木ですね。お寺に隣接するところは、床柱とか使わなければいけませんからスギではなくケヤキとか、実利的な意味でも植えています。風を防ぐと、内側にはユズとかウメなどの果実、あるいは花なども植えることができるので、多機能の森で、しかも地域の景観をつくっています。おもしろいのは、どの家にも必ず北西の角に、地内明神と言いますが、小さなお社があります。本当に小さな祠ですが、それが守ってくれているというので、朝晩ご飯をあげたり、お水を供えたりしています。ですから、精神的な森でもあります。


↑震災前の居久根のある農村集落

このように用材、防風、楽しみ、そして明神さま、守り神。それがこの地域の大事な財産だと思ったものですから、集団移転の場所でもつくろうと。ただし、1軒1軒は狭くなるので、一つひとつの家が今までのようにいぐねを持つことはできないわけです。それで集落の、新しい防災集団移転地の周りにコミュニティいぐねをつくろう。そういう公園、公共施設があってもいいのではないか。それでいぐねの調査を徹底的に行い、データを持って復興庁に行ったのです。大事だから、こういうのを認めくださいと言いましたら、簡単に断られました。相手にしていただけなかったのです。


しかし、このまちづくり検討会で皆さん、いぐねをつくりたい、大事だと思っていますから、道路の隣の街路樹や植樹を活用して、風をよけることができるようないぐね風の植樹帯をつくろうということを皆さんで決め、道路いぐねという名称をつけました。

コミュニティがとても大事なので、公園や集会所をコミュニティの皆さんの活動の拠点という形で位置づけ、どういう使い方をしたいかとか、そういうこともまちづくり検討会で話しています。つまり、手づくりでひとつひとつ、丁寧に実行しています。