東北全体を牽引するビジョンの必要性

─岩沼における復興の取り組みを踏まえ、少し視野を広げて東北全体の復興を考えた場合、さまざまな課題があると思います。先生からご覧になって、東北としての復興に向けたグランドデザインをどのように描いていくべきなのか、先生のお考えをお聞かせいただけますか。

私はコミュニティに関してはそれぞれのコミュニティで、自己責任でやるしかないと思っています。三陸には小さな浜があり、どの浜の方も低地に住んだらまた津波が来ますから、全部高台移転。それが実際には全然進んでいないのです。浜に住んでいる方が高台に行くというのは、本人の意思を尊重するのであればいいと思います。

ただ、本当にできるかどうか。気仙沼では48地区の計画で、6月にやっと第1号がスタートしました。まず、浜は点在しているので工事を請け負ってくださる方がいない。遠隔地ですからコストがかかる。しかも、1軒、2軒、5軒ぐらいの移転ですから、企業としては事業として成り立たない。いろいろな問題がよこたわっています。

コミュニティの問題はある意味、自己責任でやらなければいけないという部分があります。人は助けてくれない、自力再生が基本です。それとは別に私は国家的な目線というか、プロジェクトが、欠落していると思います。これは被災者のコミュニティの方の責任ではないです。東北全体をどうしていくのか、それは国の責任です。県ができるとも思えないです。こう言ってはなんですが、県の力は極めて限られていると思います。岩手は岩手、宮城は宮城、福島は福島でやっていますが、知事の方々が東北全体をけん引していくようなビジョンを出せるとは思えません。

それならば、誰がやるか。国もあまり頼りにならない。恐らく国と、それから経済界、そして国際機関が手をつないで、持続的な社会をつくっていくためのビジョンを描くことが必要だと思います。

私は個人的に東北のポテンシャルは極めて高いと思っています。北上山地は岩盤で安定しているし、一歩内陸に入れば、富士山のように地震で噴火するとかそういうところもありません。農業もしっかりしている。我慢強い人々もいます。人的資源、自然資源、文化的資源、掘り起こせば世界でも有数の可能性を持っている地域だと思います。国際的なプロジェクトを国や経済界がリードしながら立ち上げ、グランドデザインをつくらなければいけないのではないかと思っています。時間はそんなに必要でないと思います。プロジェクトがたくさんあるので、それを取捨選択してつくっていく。東北を引っ張っていくような国家目線のようなものがない限り次世代へと手渡していく復興は、無理なのではないかと思います。

─今回の3.11の地震をはじめとして、今さまざまな自然災害が発生しています。そういう意味でのリスク社会において、我々の課題としてはどういうものがあるのか。また、それに対しどのように対処していくべきなのか。最後にその点をお伺いさせていただきたいと思います。

まさに現代はリスク社会だと思います。東北の地震も本当に1秒前までわからなかったことです。ただ、よく考えなければいけないのは、これはたまたま東北という場所で起こったことですが、私たち日本国民全員に突きつけられた課題ではないか。いつ自分の街が、東京がグラグラ来てもおかしくないわけです。たくさんの方が亡くなられて、いまだに家もなく、福島の皆さん方は大変な思いをしていらっしゃいますが、自分の問題としてそこからしっかり学ぶということでしょう。そして備えるということが何よりも大事だと思います。自分の家族、あるいは大事なふるさとに、自分が何か貢献できることはないかと少しでも思うのであれば、東北の震災から学んで備えることです。備えることというのは、それぞれの場所で違いますから、画一的ではありません。それぞれの場所で身の丈に合った備え方を具体的に考えることが必要ではないかと思います。

─貴重なお話をありがとうございました。