病院で生まれ、病院で死ぬことが幸せか?
―そうすると、医療サービス提供体制が大きく変化することになりますね。一方、患者の側にすればとまどいもあるかと思いますが、我々患者、一般市民は、医療環境の変化、医療サービスの提供の変化に対してどのような心構えをすればよいのか。その辺りについて先生どのようにお考えでしょうか。
やはり自分がいつでも気楽に相談できる「かかりつけ医」をみんな持ってもらいましょうという運動が必要です。随分長いこと言われてきましたが、なかなか定着しません。
医師の側にも問題はあります。かかりつけのお医者さんにふさわしい人がどれだけいるのか。今みたいに高齢者が増えてきて認知症の患者さんが増えてくると、認知症のことをよく理解している地域のお医者さんがどれだけいるのかと言うと、その課題がある。でもお互いに努力して、かかりつけのお医者さんをまず普及させていく。まずそこで相談をして、必要があれば病院も含む専門の医療機関に紹介してもらうという新しい流れをちゃんとつくっていかなければいけないということが、一番大きな課題ではないかと思います。
それから、病院で生まれて病院で死ぬのが本当に幸せなのかということをもう1回私たちは問い直さなければいけないと思うのです。日本では99.6%ぐらい病院で生まれます。助産師さんのところで生む人は本当に少なくなってしまった。逆に、亡くなるときには8割が病院です。主要国のデータを見てみると、だいたい総死亡数の半分ぐらいが病院で亡くなり、半分ぐらいは自宅や福祉施設などで亡くなるという統計がはっきり出ています。
日本みたいにベッド付きの診療所も含めると8割が病院死というのは、それでいいのかなということなのです。住み慣れた自宅で看取ることができるような医療を提供していかなければいけない。自宅で亡くなるというのはなかなか難しいです。核家族化していて、家族が面倒を見てくれる人は少ないですから。
そうすると、例えば認知症の人たちのグループホームや特別養護老人ホーム、あるいは有料老人ホーム、サービス付きの高齢者住宅など医療機関でないところも含めてちゃんと看取ることができる体制をつくっていく。それは患者たちも病院にそんなに頼っていて、あんなところで死んで幸せなの? ともう1回考え直す運動から始めなければいけないと思うのです。そういうことも必要になってくると思います。
患者さんは医者に何でもかんでもすがりついて任せきりにするのではなく、病気を治すのも死に場所を選ぶのも自分の責任として、自分でもうちょっと考えようということも含めて改革をしていかなければいけないと思っています。