市町村国民健康保険の再編成
―国民会議の報告書では、国民健康保険の保険者を市町村から県に移す方向が示されています。市町村国保自身がかなり揺らいでいるという現状の中で、先生のお考えについてお聞かせいただけますでしょうか。
平成の大合併で3,200あった市町村がいま1,700余りになっている。しかし、市町村の国民健康保険は1,700もあるのです。それぞれの市町村で高齢者が多く、比較的所得が低く、そして病気がちの方が多いという三重苦にあえいでいる。内容的にも非常に難しい。
もう一つ、保険集団としても加入者が3,000人未満というところが4分の1です。500人とか1,000人しか加入者がいないとどういうことが起きるか。冬場になってインフルエンザが起きると、あっと言う間に市町村国保は赤字です。また、末期のがんの患者さんが2人か3人出たらもう赤字です。要するにリスク分散ができないわけです。保険というのは、加入者がたくさんいるからリスクが分散できるのだけれども、リスク分散が非常に難しい状況になってきた。
いまでも難しいですが、先行きの人口減少と高齢化を考えるともっとその状況が厳しくなってくるわけです。2013年3月に2010年から2040年にかけての新しい人口推計が出ました。2040年になると、人口が5,000人未満の自治体が全体の2割強を占めるようになります。そうすると、例えば財政破たんの夕張市はいま約1万人の人口ですが、あそこはこのままだと4,000人を切るのです。高知県の室戸市は、1万5,000人の人口が3分の1に減り、6,000人弱になる。それぐらいすさまじい人口減少が起きる。そうすると、市町村の国民健康保険はさらに加入者が減ってくるわけです。住んでいる人全部が市町村の国保に入るわけではないです。地方ではだいたい住民のうち4割ぐらいです。だから人口が5,000人ということは、国保の加入者は最大限4割で2,000人ぐらいにしかならないです。だからもっと厳しい状況になっている。
それから2040年になると、高齢化率が40%以上の自治体が全体の半分を占めます。高齢化率40%というのは恐ろしいです。65歳以上の人が住民のうち2人に1人になったら、もうそれは限界集落で集落として成り立たないとよく言われます。ところが2040年に、このままいくと75歳以上が2人に1人になる自治体まで出てくるのです。群馬県の南牧村などは、このままいくと75歳以上が2人に1人です。もちろん少子化に歯止めがかかれば別ですが。
そういうことを考えると、市町村の枠組みのまま国民健康保険を本当に維持できるのかどうか。やはりもうちょっと大きな枠組みに再編成しなければ、市町村国保はもたないじゃないのかというのが、私がずっと考えてきたことだし、国民会議でもそこに賛意を表された方のほうが多かったのです。ですから、1,700ある市町村の国民健康保険を47の都道府県に再編成をしよう。そうすると、少なくとももうちょっとリスク分散が可能になるのではないか。
それから都道府県が保険者になってくれれば、病院の再編成をやることについても都道府県には真剣になってもらえるだろう。いま都道府県は、県内の医療計画、例えば「病床数はこれぐらいで適切ですよ」みたいなことを決める医療計画や医療費の適正化計画などを作っているだけです。言ってみれば、コーチ役しかやっていないのです。もうコーチはいいから、プレーイングマネージャーになってください。要するにちゃんと国保の運営に直接責任を持ってくださいということを今回お願いしています。
それが実現すれば、1,700もある国民健康保険を47に集約をする。そして県が財政の責任者となって、市町村と協力をして国民健康保険を運営していく体制を作らないと次の時代を乗り切れないのではないかというのが、私たちの考えです。もちろんこれはいろいろな考え方があって、市町村の国民健康保険は半世紀ずっと運営してきたわけですし、なるべく住民に身近な保険者のほうがいいという考え方もある。
市町村は結局、最終的には保険料を集めるわけです。県が集めると言ったって県には手足がないから結局、保険料は市町村で集めなければいけない。ちゃんと保険の責任があるから保険料の徴収に回るのだし、保険者としての責任があるから一生懸命医療費の適正な使い方に対して市町村が今まで働きかけをやってきて、健康づくりや病気の予防など一生懸命やってきた。都道府県が保険者に代わったら、市町村はそういうことをやらなくなるのではないかと心配をされる方がおいでになるので、これは県と市町村の協働事業にしてくださいという方向性も打ち出している。これから県単位国保の作業に入ることになっています。作業そのものはこれからです。
市町村は保険料の徴収もやるし、窓口の相談にも応じるし、資格管理みたいなこともやるし、保険料の設定も最終的にはやはり県がある程度の基準を決めて市町村が最終的に決めるという方向にしないと、医療費の適正な使い方に対する努力をしなくなってしまうとか、あるいは保険料の収納率と言いますが、徴収率が高くないと困るのです。それも努力しなくなるというので、その努力をしてもらう仕組みは残したまま県が財政責任者になるという非常に難しい制度設計になります。でもそれをやらないと、300人とか500人とか、ひどいところは100人を切るような市町村の国民健康保険はどう考えても無理でしょう。私はそう思います。