東北の基盤産業をいかに創るか

―その辺りは、当初の復興構想会議とか、いま先生がおっしゃったようなグランドデザインを描くというような場面があったと思うのですが、その中で十分、そういった議論はされなかったということでしょうか。

それほど複雑な話ではなく、例えば東北地域の人がどうやって胸を張って飯を食べていくのかというときに、この地域の基盤産業はいったい何かというと、やはり食や農業という分野がものすごく重要だろうということは誰でも分かることです。では、食と農業ということに関して、この地域にいったいどういうプロジェクトをよみがえらせるのかという話に具体的に踏み込んでも、見えてこない。

そこに追い打ちをかけるように、TPPの議論まで出てきている。そうすると、ここの地域で食と農業と食料の問題に立ち向かっている人たちは、いったいどうしていくのか。例えば食料自給率について、日本はいま、カロリーベースで39%まで落ちてしまっている。世界で先進国はいろいろあるけれども、日本を除いて食料自給率が一番低いと言われているイギリスでさえカロリーベースで65%あるわけです。日本の39%は異常に低い。

とにかく、エレクトロニクス、自動車、鉄鋼という産業力で、外貨を稼いできた。食べ物なんていうのは外から買ったほうが効率的だという国をつくってきたわけですが、本当にこのままでいいのか。何とかして日本の食料自給率を高め、農業や食料という産業基盤をつくらなければいけないという話は、とっぴな意見でも何でもなく、まっとうな日本人だったら誰もがそういう方向に行くべきだと思います。

事実、昨年、日本の輸出と輸入のバランスの貿易赤字が、ついに6兆9000億円にまでなってしまった。産業で外貨を稼いで、農業なんていうのは外の国に任せたほうがいいという国づくりには、今後期待できないというか、考えを改めなければいけないところに来ているわけです。

それで東北にどのような農業の、あるいは食料の基盤をつくるかというと、まるでブラックジョークのようにTPPが追い打ちをかける。私は必ずしもTPPに反対だという単純な議論をしているのではないです。長い意味で、例えば補助金や助成金に支えられた農業を力強いものに変えていかなければいけないタイミングが来ていることは間違いないわけです。しかし、産業と農業の戦いにしてしまい、農業団体の人たちが悲しみに打ちひしがれて、産業界を率いている経団連の会長が高笑いしているような形でTPPに踏み込んでいっても、結局、この分野をますます荒廃させ、弱体化させていってしまうことになると思います。

今やらなければいけないのは、産業で培ってきた技術、例えばそれがエネルギー関連の技術であれ、バイオ関連の技術であれ、実はこれからの農業にとってものすごく大事なわけです。温室栽培にしろ、大変なエネルギーを要する農業にだんだんなってきている。そういう中で、エネルギー関連の技術をどうやって注入して農業を力づけるのか、あるいはバイオ関連の技術をどうやって注入して農業に競争力を与えるのか。産業と農業が協力して、産業が培ってきた資金と技術と人材で農業を支える。農業の基盤を、例えば東北という地域にそのようなプロジェクトをつくって農業の基盤を再生しなければ、TPPに入っても、農業が全く疲弊してしまった状況で立ち尽くすことになるだろう。要は、産業と農業の戦いにしてしまっていること自体が愚かなので、その構図を変えていかなければいけない。