医療と住環境コンテナによる防災拠点の設置
阪神・淡路大震災から、20年近くたっても一切も進歩していないものがあります。それは住環境です。いまだに地震に襲われたり、津波に襲われて家を失った人は、近所の小学校、中学校に逃げ込んで、膝小僧を抱えて、ござを敷いて、1週間、2週間寒さに耐え、隣の人の寝息や歯ぎしりまで聞こえる、プライバシーも何もないところで耐えに耐える。いまだにそれをやっているわけです。
問題は何とかならないのかということですが、そこにプロジェクト・エンジニアリングです。例えば、まず一番困るのは、トイレと風呂などの水回りです。陸上輸送できるコンテナの中に、トイレと風呂をパッケージとして入れた水回りコンテナ、それに医療コンテナです。つまり、そのコンテナさえ運び込んで電源が確保されれば、診療所として機能するような医療用コンテナを準備できないだろうか。お医者さんさえ確保できれば、診療所として稼働できるようなパッケージになったコンテナです。
それから、もう1つここが重要ですが、住環境コンテナというもので、新橋駅前のカプセルホテルのノウハウで、コンテナの中に50床ぐらいのプライバシーを確保できるようなカプセルを入れ、1人1台のテレビぐらいある。これは技術的に可能です。カプセルホテルに行ってみれば分かる。
要するに、そういうものを防災拠点とする。例えば、太平洋側と日本海側のどちらで震災が起ころうが、自衛隊のヘリコプターでコンテナは運べます。ちょうど日本列島の背骨のところ、例えば那須塩原から白河にかけてのところ辺りに置く。今は道の駅があります。道の駅の周りを防災拠点として、そういうものを確保して集積しておけば、どちらで震災が起こっても、その日のうちにいま言った医療コンテナと水回りコンテナと住環境コンテナを運び込めば対応できる。そうすれば、1週間たっても10日たっても仮設住宅はまだかというような現状を克服していけるのです。私が言いたいのは知恵なのです。
―その辺りは、自民党の国土強靭化計画の中には入っていないのでしょうか。
入っていないというか、大真面目な話、これからどうしてもそれを入れていかなければいけないというプロセスにあるところです。いま私は、たまたま分かりやすいからこの話をしているのだけれども、それだけではないわけです。私は医療船構想のまとめ役をやっています。つまり、日本は島国だから船でアクセスすることがすごく有効だということを、今回の震災で教訓を受けました。太平洋側と日本海側に5万トン級の医療船を配置して、できれば九州にもアジアで震災が起きても対応できる医療船を3隻ぐらい配置して、稼働できる病院船を置く。
アメリカは戦争を想定している国だから、太平洋側と大西洋側に7万トン級のそういう船を持っている。中国も結構考えていて、調べてみると医療船構想を進めている。いま私が話している文脈を分かっていただけると思うけれども、そういう考え方があると思ったら、それを全面的にうのみにするだけではなく、もっと進歩させるためにはどういうアイデアがあるのかを建設的に議論して、どんどん進めていってほしいのです。しかし現状は、美しく生けるべき生け花の花は全部そろっているのに、真ん中に立てる剣山を思い付く力がないから、花が全部倒れている状況にある。それぞれ銘々が、自分には技術があるとか、自分にはポテンシャルがあるとか、参画できる土俵がない。
シリコンバレーは、本当はびっくりするぐらい何もないところです。ただし、人の知恵と人のポテンシャルを利用する力がある。世界中から能力のある、野心のある若い人をかき集め、技術をかき集め、資金をかき集め、自分の問題意識の上に花を立てて生ける力がある。日本は全部のポテンシャルを持っているのに、花を立てる剣山の役割を果たすガバナンスがないから、すべての花が寝ている。このプロジェクト・エンジニアリングで言いたいのは、そこです。