プロジェクト・エンジニアリングによるアプローチ

―いまコンセプト・エンジニアリングという話が出ましたが、それをさらに広げて全体の統合管理ということでいうと、先生がよくおっしゃるプロジェクト・エンジニアリングということになるのでしょうか。

本当にそうです。私は言い続けているのですが、日本にいま一番欠けているのは冒頭の話にも関わるのですが、あるグランドデザインの下に具体的なプロジェクトとして、成功させようという束ねていく力です。
エンジニアリングとは何かというと、個別の要素を組み合わせて問題を解決していくアプローチです。個別の要素点検をして、このプロジェクトを成功させるためにはどういう要素が要るか。例えば人材、技術、資金力、そういうものを組み合わせて問題を解決していくアプローチです。

先日、アメリカのシリコンバレーに行ってきました。それで余計そういう思いがあるのですが、日本はすべての個別の要素において点検をすると、一流のものを持っているのです。例えば、世界に冠たる技術を持っている企業があり、技術基盤があるのです。人材の質もそれぞれ高い。資金力もある。今回のアベノミクスでも、日銀に圧力をかけて金融をじゃぶじゃぶにするというぐらいの発想で立ち向かおうというので、これは調整インフレ論です。問題はじゃぶじゃぶにした金を何に使うかということです。要は、お金と人材と技術と組み合わせて、ひとつのプロジェクトを成功させようという形に持っていく力が大きく欠けている。
いま東北に、このプロジェクト・エンジニアリングの発想で、グランドデザインで何をやったらいいかと言われたならば、例えば私なら、復興庁で今やるべきことは、かつての首都機能移転の話とは違った次元で、復興のために東北6県をにらんだ根っこに、復興庁などをどんとそこに置く。

現実に検討主題としていま存在していますが、今回の震災を受けて民間企業で、教訓としてデータセンターを分散しなかった会社などほとんどないのです。一部上場企業で1社もない。どうしてかというと、データセンターを東京に集中させていたら会社は動かなくなってしまう。関西と東京の2つにデータセンターを分けて置くか、北海道に持っていくか、あるいは東北のどこかに置くか、九州に置くかは別にして、とにかく分散しておかなければまずいということで、データセンターの分散は常識になっています。
そこで、例えば行政機能も東京がつぶれたときに、どこがバックアップするのか、どこが対応するのかというシミュレーションが現実問題として要るわけです。そういったときの、例えば第2副首都というようなイメージで、東京は東京として存在していても構わないから、分散させておくべきものは、優先的なものは何なのか。例えば、そういうものを東北の一番南のところに持っていく。

今回の震災での教訓を受け、私はいま本気で考えている構想があります。こう説明していくと分かっていただきやすいのでしょうが、阪神・淡路大震災と東日本大震災の違いは何かということです。あれから15~20年経過しようとしている中で見えてきたことがあるわけです。

阪神・淡路大震災のころから東日本大震災までの間に、防災という文脈でものすごく進化したものが2つあります。何かというと、携帯電話とコンビニエンスストアです。携帯電話は、阪神・淡路大震災のころはまだ大きくて、持っている人も珍しかった時代ですが、今や1億台を超し、スマートフォンの時代が来ました。例えば、安否確認から防災対応まで、携帯電話の持つ意味を誰も否定できないところまで普及、定着しました。物理的に電源さえ確保でき、つながりさえすれば、携帯電話は安否確認で家族はどうしているかとか、親類縁者はどうしているかという話まで、あるいは緊急事態の速報を伝えるということまで含め、ある種一定以上の役割を持っていることは否定できないところまで進化しました。

それから、コンビニエンスストアはIT革命の成果です。つまり、30分頑張って歩けるところにコンビニがあるほうが、行政が鐘や太鼓で炊き出しをするよりも、はるかに民政を安定させるということは検証されているのです。どういうことかというと、阪神・淡路大震災のころは、コンビニエンスストアはまだ全国に2万件ぐらいで、主に大都市圏にありました。ところが、今は6万を超して、どんな地方都市にもコンビニぐらいはあるわけです。そのコンビニがネットワーク型の生ものの回転システムだと考えれば分かりやすい。つまり、アメリカのセブン-イレブンには腐らないものしか置いていないわけです。乾き物というもので、コーヒーと腐らないものしか置いていない。ところが、日本のコンビニエンスストアは、それを進化させ、情報技術革命の成果で、5~6時間で生ものを回転させる自信があるから、弁当や総菜とかを置けるわけです。

この十何年かの間に、コンビニが全国に浸透していっているわけですが、これを震災が起こったときに、あるいは防災対応策としても行政として活用したほうがいい。問題はそこからです。