農業再生のプロジェクトで雇用と復興を

例えば、アーク牧場という岩手県の農業をベースにした畜産企業があるのですが、ここの橋本君という37歳の若い経営者がなかなか立派な男なのです。私は「就職を機に世界と人生を考える」という番組をBS12chで毎週月曜日の夜に放送しています。何週間か前に、その橋本君がいかに歯を食いしばって、農業生産法人のプロジェクトに立ち向かっているかということを紹介しました。東京の農業大学などを出た女性たちも採用しています。農業というとだいたい朝から晩まで働きづくめの労働と思いがちですが、彼は頑張って、ちゃんと順番で休暇も取り、自分たちの時間管理もしっかりできるような、本当に合理的な農業をやるために一生懸命6次産業化に取り組んでいます。

畜産だけではなく、ドイツまで行ってハム・ソーセージのつくり方の技術を学び、そういう製品を入れ、直販している。さらに観光農業ということで、小動物などを抱いたり、かわいがったりできるような観光農園牧場などもつくり、観光客も呼び込んでいます。このように、岩手にちょっとした大きな畜産生産から流通までを含む6次産業化した実験のようなものに立ち向かっている人も現実に出てきているのです。補助金、助成金を当てにして農業を再生しようとする人ではない、まっとうな問題意識で農業の再生にかけている人たちが、現実に東北にも出てきているのです。

そういう人たちに私が言っているのは、例えば日本の自動車産業が培ってきた技術が、どうやって力になり得るのかということです。あるいは化学工業や、鉄鋼業など、それぞれ農業という分野を支えるだけの資金力と人材の力と技術力を持っているわけです。東北という地域に、食材王国という言葉の遊びだけではなく、現実にプロジェクトが進行して、そこに若い人が年収300~400万ぐらいの収入を安定的に得ながら胸を張って働いていけるというプラットフォームが見えてきたら、家族を養うためにふるさとを離れている人も、再び自分のふるさとでそういう農業などをベースに戦ってみようとなるわけです。そんなプランも何もない、更地のようなところに戻り、それこそ絆や連帯だと言ってみても、毎日炊き出しの飯が届くわけでもない。 要するに、基本的に、この地域にどういうプロジェクトで産業の活力を取り戻すのかということが描ききれない限り、復興はないと思っています。