チーム医療の必要性

―専門医や医師不足について、特に外科などの診療科で医師不足が進んでいると言われていますが、その点に関して先生のお考えをお聞かせください。

私がなぜ医師不足解消に力を入れてきたのか、それは私が外科医であることにかなり関係しています。日本の場合、外科医は術後の重症な患者さんを診ることに慣れている等の理由で、つぶしが効く存在のように期待されてきました。外科医だけれども同時に救急、麻酔、抗がん剤治療、緩和ケア等まで担当してきたのです。

ただし、35年以上経験して肌で感じてきたことですが、救急、麻酔等々、それぞれの分野は35年前に比べて長足の進歩を遂げてきました。皆さんも自分の家族が緊急手術を受ける時に、「今日は麻酔の先生がいないので、久しぶりだけど、私が麻酔を担当します」と言われたら嫌でしょう。一般の方には信じられないかもしれませんが、これが多くの日本の病院の実態です。同様に専門家が抗がん剤治療を行う場合と、外科医が抗がん剤を投与する場合では、残念ながら効果や安全性に差が出るのは当たり前なのです。

その結果、日本の多くの病院で外科医は、長時間労働に加え1人何役もこなしています。その現実を私はずっと現場で見聞きしてきましたから、医療の質を上げる、安全性を保つためにも医師を増員して必要な専門医を増やすべきだと考えているのです。

私のことを医師増員だけ主張している輩と誤解している人も多いのですが、医師増員以外にもアメリカなどですでに活躍しているPhysician Assistant(PA;医師補助職 ※1)や、Nurse Practitioner(NP;公認看護師 ※2)など、医師をサポートする職種を導入すべきと訴えています。ようやく日本でも医療秘書さんが増えてきましたが、アメリカは日本より医師数が多いのに、医師をサポートする職種が充実しています。医師の業務を分担してサポートしてくれる医療秘書やPAやNPが、麻酔科であれば麻酔看護師が活躍しています。恐らくアメリカで外科医が麻酔をかけたら逆に訴えられるのではないかと思います。

※1(フィジシャンアシスタント):医師の監督下で手術や薬剤の処方などの医療行為を行う専門職。日本にはない職種だが、米国・英国・カナダ・台湾などで導入されている。
※2(ナースプラクティショナー):診療補助だけでなく、医師の監督下で診察・診断・薬剤の処方・腰椎穿刺等の処置などを行うことが認められている看護師。診療看護師。


医師は全国各地の必要数をきちんと試算しながら増やす、同時にPAやNP等、医師をサポートする職種を医療現場に導入することが喫緊の課題です。そうすれば、今過重労働に悩む勤務医も自分本来の仕事に専念できて、働き続けられる可能性が高いのです。今までのように、外科医に長時間労働と一人何役をいつまでも要求していたのでは、今の若い医師が外科を選ばないのは当然と心から心配しています。

若手医師が誇りを持って働ける医療環境をつくりたい。それはわれわれ医師のためだけでなく、患者さんのために医療の質と安全とアクセスを保つために絶対に必要だという信念で、一生懸命訴えているわけです。

―アメリカに医師をサポートする職種がたくさんあるということですが、日本では医師のサポートをしている看護師さんもいま不足していますね。

そうです。医師不足の結果、看護師さんも患者さんのケアに加えて、専門的な治療にかなり携わらなければいけなくなっています。医療の進歩に伴って点滴や人工呼吸器の精密機器の操作等々、かなりハイレベルなことが要求されています。結果的に操作ミスが生命に直結する業務まで看護師さんが負担せざるを得ない現状があります。

アメリカのPhysician Assistantはどちらかというと医師をサポートする職種で、Nurse Practitionerは看護師と医師の中間の処置を担って、チーム医療が可能となっているのです。このようなチーム医療の構築は、先進国最少の医師数の日本で一刻も早く実現しなければならない体制です。