医療制度改革に向けたさまざまな取り組み
―社会保障制度改革国民会議の報告書が今年(2013年)8月に出されました。医療・介護に関する政策パッケージが示されていますが、先生から見てこの国民会議の報告書の提案を、どのように見ていらっしゃるのでしょうか。
まず、1980年代初頭の土光臨調から一貫してそうなのですが、日本政府が言う医療制度改革とは、簡単に言うと医療費削減と患者個人負担増です。橋本内閣の当時にも医療制度改革が大きくクローズアップされましたが、昔サラリーマンの窓口負担はゼロだったものが、1割、2割、3割と増えて、現在は高齢者も1割、2割と増加が叫ばれています。今回の国民会議案も、私に言わせれば基本的には同じです。
国民会議報告書の何が問題かというと、グローバルスタンダードと比較して日本の医療費はすでに先進国最低に抑制されて、一方患者窓口負担がすでに最高レベルであるという現実認識が一切抜け落ちていることです。さらに大変残念なのは、日本で政策を決める諮問会議などの委員を決める際には、官僚や経済界の意向が強く働くことです。そのような人選で社会保障制度改革を話し合えば、医療費は少なく、国民負担は多く、経済界の負担は少なくとなります。
一口に言えば、グローバルスタンダードを一切無視して、社会保障制度改革と名前だけを借りて医療費削減と個人負担増に終始してきたのが日本の医療の実態です。
―限られた医療提供体制をうまく機能させるために、地域医療におけるネットワークが注目を集めています。済生会栗橋病院では『とねっと』という地域医療ネットワークを展開されていますが、簡単にその概要や課題について、ご紹介いただけますでしょうか。
「とねっと」は、埼玉利根保健医療圏地域医療ネットワークシステムの愛称です。利根保健医療圏内の住民(患者)を対象に、医療情報をネットワーク技術の利用で共有し、医療連携を推進して患者さんにより良いサポートを行うことを目的として構築されました。
加入した患者さんには「かかりつけ医カード」が発行され、医療機関などで発生する検査結果や処方薬等の情報が共有されます。その情報の一部は、住民(患者)の皆さんが、参照および登録することができるようになっています。またこのカードを常に持ち歩くことで、救急時には救急隊員が情報を参照できるようになり、迅速で的確な救急活動ができることが期待されています。
まだカードの普及率はあまり高くありませんが、このような情報共有化は重要で、どんどん広がったらいいなと思います。地元住民の方への働きかけによって、さらなる普及が望まれます。
一方、同様のITを利用したシステムで、最近埼玉でも導入したのが救急現場におけるiPadシステムです。救急隊員がiPadを使って、地域の病院の空床状況や当直医の専門性等を一瞬で確認できるようになりました。
しかしこの両者とも全国一医師不足の埼玉から見ると、やはり医師不足が解消されないと、多くの効果は期待できません。『とねっと』のカードが普及し、iPadが病院の情報を提供してくれても、治療をする体制が充実しなければ、たらい回し(受入れ不能)は無くならないと思います。